苗字
私たちの中学校は校則が緩い。
学校にスマホを持って来ても良いのだ。
だから昼休みには、みんな集まってスマホでゲームをするのが日課になっている。
いつもの女子メンバーで集まっていると、
「朝比奈さん、何そのゲーム?」
「これ、昨日Youtuberが紹介しているのを見つけたんだ。鈴木さんもやってみる?」
「やるやる!」
朝比奈さんから教えてもらって、すぐにインストールしてみた。
起動すると、アバターの名前を決める画面が現れた。
苗字と名前を入力する必要があった。
苗字を入れるなんて、なんだか和風なゲーム。
「そこにね、名前を入れるんだよ。なんでも良いけど、私は『朝比奈』って苗字って入れたよ!」
朝比奈さん、カッコいい苗字でいいな。
それに引き換え、私は鈴木。
すごくありきたり……。
ゲームの中でくらいカッコいいのにしたいな。
何が良いだろうな。
そうだ、これにしよう。
朝比奈さんは、私が入力している画面を見ると、褒めてくれた。
「『
そう。『綾小路』ってカッコいいって思う。
実際に、同じ苗字がついている人もこのクラスにいるしね。
綾小路君。
名前だけじゃなくて、顔もカッコいいんだよね。
「ん?俺の事呼んだ?」
……あ、やばい。
綾小路君本人に、聞こえちゃったみたい。
綾小路君がこっちに向かってきた。
……バレてるなら、自分から言っちゃおう。
「あはは、綾小路君の名前借りちゃったよ。カッコいい苗字だなーって」
綾小路君は怒るかと思ったけれど、ニコッと笑ってくれた。
「別に好きに付けたらいいよ。俺だけのものってわけじゃないし。それより、そのゲームってなんか面白そうだね、俺もやってみようかな」
朝比奈さんはここぞとばかりに、綾小路君に勧めた始めた
。
「面白いよ! 一緒にやろうやろう? ついでに『紹介コード』なんていうのも入れてくれたら嬉しな」
朝比奈さん、ちゃっかりしているなー……。
「綾小路、何やってるんだ?」
「なんか楽しそうじゃん」
綾小路君の楽しそうな声に誘われて、他の男子もやってきた。
みんなでやるのは楽しそうだから、増える分には良いか。
「みんなでこれやろう! この紹介コード入れてね!」
朝比奈さんは、商売人になれるかも。
男子にも『紹介コード』を教えて回っていた。
そんなことをしているうちに、綾小路君のスマホにはゲーム画面が出てきた。
「ダウンロードしてみたよ。ここに名前入れればいいのかな?」
「そうそう。綾小路君の好きな名前入れちゃっていいよ」
そう言われた綾小路君は、ちょっと考えるそぶりを見せたけどすぐに入力し始めた。
「そしたら、俺は『鈴木』ってつけようかな」
『鈴木』なんて入れるんだ。ありきたりな私の名前。
なんでかなって思ったけれど、私が反応するよりも早く他の男子が反応した。
「えー、そんな面白くない名前入れるの? もしかして、お前『鈴木』のこと好きなの?」
綾小路君がからかわれてる。
そりゃそうなるよね。
私がすぐ近くにいながら、それもありきたりな『鈴木』なんて名前入れて。
「良くない? 『鈴木』って名前俺好きだよ。この苗字好きってこと、恥ずかしいなんて思ったこと無いし」
あれ?
鈴木っていう『苗字』が好きってことだよね。
綾小路君カッコいいから勘違いしちゃうじゃん。
なんだか私が恥ずかしくなってくる。
綾小路君って、こういうことも恥ずかしがらずに言うところがカッコいいんだよね。
綾小路君の方を見ると、私の方を真っすぐに見ていた。
そして、微笑みながら私に向かって言った。
「俺、鈴木のこと好きだよ」
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