レッサーパンダ
段々と秋も深まる季節。
紅葉こそしていないけれども、外を来て歩き回るにはちょうどいい季節。
休日を利用して、私と
動物園と言っても、動物公園。
学生の私達には、あまりお金が無い。
だけど、こういうところであればお金もかからずに楽しめて、私はこの動物公園が好き。
動物園なのだが、ここは都会の真ん中なのだ。
森に囲まれているが、木々の隙間からは都会のビルが見える。
初めて見た時は、何とも不思議な光景だと思ったけれど。
今では、少し安心する。
日常で見える風景もすぐそばにあって、動物も見れて。
やっぱり、私はここが好きだな。
私にとっての憩いの場。
圭一君と何度かここに来ているけれど、文句も言わないでついてきてくれる。
ありがたいな。
「ごめんね、またここでのデートで」
「大丈夫だよ、僕もここ好きだよ」
優しく手を握ってくれる圭一君。
秋の涼しさを感じさせない暖かい手。
少し笑いながら、圭一君はこちらを見てきた。
「この前『ライブに行ってくる』って言ってたから、なんとなくこうなることは分かってたよ」
「え、あ、それ言ってたっけ……」
圭一君には隠し事できないな。
というか、私が言っちゃってるのか。
「圭一君は何でもお見通しだね。その通りで、ライブで遠征したらお金がなくなっちゃってね」
圭一君は、終始にこやかに答えてくれる。
「そのおかげで、またここに来れたって思えば、そのライブのアイドルグループに感謝しないとかもね」
優しいんだから圭一君は……。
甘え過ぎちゃうな…。
先立つものは無くても、やっぱり圭一君には会いたいし。
こういうところでお話しながら歩くのも良いなって思うし。
私はここが好きだし。
幸せな一日って感じるな……。
動物園を手を繋ぎながら、歩いていく。
レッサーパンダの山が見えてきた。
段々近づいてみると、いつもと違う格好をしていた。
「圭一君、レッサーパンダが立っているよ。可愛い! ほらほら見てよ!」
いつもは、何も気にせず動き回っているだけだったのに、今日は珍しい。
興奮して、圭一君をぐいぐい引っ張ってレッサーパンダの方を向かせた。
「珍しく立ってるね。けどあれってさ、実は威嚇しているんだよね」
「そうなの?」
レッサーパンダが立つのは知ってたけれど、威嚇しているっていうのは初めて知った。
「小さいからだを大きく見せているんだって。僕たちが怖いのかもしれないよ」
「そう言えば、私大声出しちゃったかも……」
「気が立っちゃったのかもしれないね。優しく見守ってあげよう」
圭一君の優しい雰囲気をレッサーパンダも分かったのか、立つのをやめて四本足で歩き始めた。
「圭一君のレッサーパンダを思う気持ちが通じたのかも。圭一君の気持ちって色んな生き物にも伝わるんだね。レッサーパンダも好きなんだね、圭一君」
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