スカウト

 何で美穂子みほこは来れなくなっちゃうかな……。

 池袋に一人でお買い物する羽目になっちゃったよ。とほほ……。


 一人で歩く東京なんて、怖い気がするんだよね。心細い……。


 駅から地上に出て、目的の方向へと進む。

 スクランブル交差点と言わなくても、大きな交差点がある。

 信号待ちをしている人で溢れていた。


「人多いな……」


 そんな人ごみの中をすり抜けながら、ビラ配りをしている人がいた

 東京って変な人が多いから、ビラ配りをしている人さえ、怪しく見えちゃうよ。


 なんだか、こっちに近づいてくる。


 ビラ配りしているのは、よくよく見るとカッコいいだった。

 パンツスタイルのスーツ姿が決まっている。

 髪は黒くて、後ろで一つに結んでて、カッコいいなー。


 ついに私のところまで来ると、自然な感じで話しかけられた。


「これをどうぞ。ここに書いてあるQRコードでアクセスしてみると、プレゼント抽選ができますよ」

「あ、はい……。ありがとうございます」


「ぜひぜひ、今試してみてください」


 お姉さんは笑顔を見せながら明るく話してくれた。

 なんの販促キャンペーンなんだろうな?


「そうですよね、とりあえずやってみます」


 私はお姉さんに言われるまま、スマホでQRコードをかざしてみた。


 お姉さん、カッコいいからな。

 スーツ会社とかなのかな?



 そう思っていると、QRコードを読み込んだスマホは、いかがわしいサイトを表示した。


「え、なんですか、これ……」

「はは。貴方、気をつけなきゃだめだよ?」



「え、どういうことですか」

「知らない人からもらったものとか、怪しいサイトには絶対アクセスしちゃだめだからね。これは、そう言う教訓の配布物。気を付けないと、こうやってアドレスとか個人情報盗まれちゃうんだから」


 ついついお姉さんの見た目が良いから信じてしまったけど、お姉さんは知らない人だもんね。


「どう? 分かったかな?」


 相変わらず綺麗な笑顔を見せてくれるお姉さん。

 こういうキャンペーンなんだね。

 親切に教えてくれたことに、素直にお礼を言おう。


「ありがとうございます。今後、気を付けます」


 私の態度を見たお姉さんは、少し目の色が変わった。


「貴方、しっかりお礼が言えるのね。良い教育受けてるね」


 そう言うと、お姉さんは私をじっくり上から下まで眺めてから、うんと頷いた。


「こういうのって、逆もできたりするからね。貴方のスマホのアドレス帳を見てごらん?」

「えっと……、どういうことですか?」


 言われるままスマホのアドレス帳を見てみると、新しい連絡先が追加されていた。


 ――遠藤詩織。



 何やらさっきから魔法にかけられているみたい。

 お姉さんのなすがまま。


「良ければ、連絡頂戴」


 何だろう。

 これって、新手のナンパってやつなのかな?

 それも、女の人からされるなんて。


「何その目。私が信じられないってことかな? 分かった分かった。名刺もあげるからさ。私芸能事務所やってるんだ。スカウトってやつ」


 名刺を受け取ると、まじまじと見てしまった。


「どう? 胡散臭いでしょ?」


 詩織さんは、自分で言って笑っていた。

 人笑いすると、顔を引き締めた。


「危険なところだって思っても飛び込んでいける。そうやって自分の『運命』ってやつを信じて進んでいける子が、今欲しいんだ」


 詩織さんの言う通り、やっぱり胡散臭いって思っちゃう。

 けど、詩織さんはそれ以上のしつこい勧誘はしなかった。


「私の事が信じられるなら、連絡待ってるからね。悠里ゆうりさん」

「……え、私の名前。何で知っているの?」


「ふふ。何で知っているんでしょうか。私に連絡してきたらわかるかもね」


 信号が変わって、周りの人が一斉に歩き始めた。

 私と、詩織さんだけがその場に止まっている。



 初めて一人で歩いた東京。

 私は、何だか不思議な感じのするお姉さんと出会った。


 私は、詩織さんに釘付けになっていた。


「もしかして、もう答えは決まっているのかな? やっぱりスカウトは直接に限るね。私スカウトするの好きなんだ」

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