コンタクトレンズ

 保健室の中で、みんな綺麗に順番に並んでいる。


 身体計測って、なんか色々と計測されるから苦手なんだよね。

 身長は大きくなっていないのに、体重だけ増えてたりなんてしたらショックで記憶喪失になっちゃうかもしれないな……。


 それにしても、夏休み明けに身体計測は無いよね。

 私のだらけきった身体……。


 お腹に目をやると、たぷんたぷんとしているお肉が見える。

 このお肉はウソだよって言って欲しいよ……。


 実際に触ってみると、柔らかくてつまめちゃうし。

 本物なんだよね……。


 うう……、さすがに食べ過ぎたかな?



「次、雨宮さんどうぞ」

「はい」


 私の番だ……。

 体重、増えていないで……。


 目の前に置かれた体重計は、処刑台のように見えた。

 体重計は、なんだか笑顔でこちらを見ているようだった。



 ◇



「次、雨宮さんどうぞ」

「あ、はい」


 ビックリした。また呼ばれたの私?

 デジャブ?


 ってあれ? ここは、視力検査かな?


 体重を測った時くらいからの記憶が無いな……。

 まぁいいか。


 視力検査ってことは、無事進んでいるんだよね。


 メガネはつけたままで良いらしいから、そのままの状態で。

 黒い目隠し棒を持って、それで片目を塞いで。


 保健室の先生が棒で視力検査のマークを指してくれる。

 穴が開いている方を答える検査。


「これはどっちですか?」

「……あれ? わかりません」


「じゃあこっちは?」

「……わかりません」


「雨宮さん、視力落ちて来てるみたいね。メガネの度が合わなくなってきちゃったのかな。新しいメガネ買った方がよいですね」



 ◇



「私の断片的な記憶をたどるとですね、確かそんなことがあったんですよ」

「そんなことがあったんですね」


 メガネ屋さんで、店員さんに愚痴を聞いてもらっていた。


「やっぱり、夏休みって外で体を動かさないから体重増えちゃいますよね」

「そうなんです、そうなんです。分かってくれますか?」


 メガネがとっても似合う、優しそうなお姉さんが接客してくれる。


「それでですね、外へ行かないことの弊害として目も悪くなっていたみたいで」

「お客様は、スポーツとかはされないんですか?」


 そう聞かれて、私はちょっと戸惑ってしまう。


「少しします。……卓球を少々」


 スポーツなんだけど、中々大声で言えないんだよね……。

 私がそう言うと、店員さんはパッと明るく表情を変えた。


「そうなんですね。私も昔卓球やっていたんですよ」


 店員さん、オシャレだからそんなイメージ無かったな、意外。


「それであれば、メガネよりもコンタクトレンズの方が良いかもしれないですよ」


 メガネ屋の店員さんなのに、コンタクトレンズを勧めてくるんだ。

 私が思っているが店員さんにも伝わったのか、丁寧に説明をしてくれた。


「このお店であれば、コンタクトの案内も出来るので大丈夫ですよ。一度体験してみますか?」

「……けど、コンタクトレンズって、ちょっと怖いと言いますか……」


「大丈夫です。最初はちょっと分からないんで怖いと思っちゃうんですけれど、付けてみると眼鏡よりもよいんです。全然違いますよ。裸眼に近い感覚なんですよ。一回だけでも体験してみると良いと思います」


 店員さんは、なんだか少し興奮気味で話してきた。

 店員さん、メガネが似合うのに。コンタクト派なのかな。

 この思いも伝わってしまったのか、店員さんは眼鏡を取ってくれた。


 店員さんはメガネが似合って綺麗だなって思ってたけど、メガネを取った時の方が美人に見えた。



「メガネよりも、コンタクトの方が可愛く見えるって、言われる人もいるんですよ。私が付け方とか教えてあげるので、是非是非一度だけでも。お客様もきっと、コンタクトの方が可愛いと思います」


 コンタクトか……。

 考えたことも無かったな……。


 こんなにオススメされるなら、一回だけなら試してみても良いかな。


「コンタクトを付けると、世界が変わって見えますよ。私、メガネ屋に勤めてますけど、本当はコンタクトの方が好きなんですよ。あ、いけない……。ここだけの秘密にしてくださいね」

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