眼鏡クリーナー

 今日は、なんだか視界が悪い。

 いつも見えている黒板の文字が見えずらい……。


「ここ大事だから覚えておくように。テストに出すぞー」


 先生の声は教室中に良く響いて、頭に入ってくる。

 別に眠いわけではないんだよね。


 けど字が見えない。

 私が一生懸命に目を凝らしていると隣の関口せきぐち君が、心配して声をかけてくれた。


「どうしたの?黒板が見えずらいの?」

「そうなんだよね、なんだか見えずらいんだ」


 そう言いながら、関口君の方を向く。

 関口君の顔もなんだか見えずらかった。


はらさんの眼鏡、なんだか曇ってそうじゃない? ラーメン食べている時みたいな曇りようだよ。僕から見ても原さんの目が全然見えないよ」

「えっ? そうなの?」


 そう言われたので、眼鏡を外して、眼鏡のレンズを眺める。


 ……本当だ。

 透明じゃなくて、白っぽくなってる。

 なんだろう、何かの汚れかな?

 単純に曇っちゃっただけかな?


「これじゃ、見えずらい訳だね……」


 私は眼鏡ケースを出して、そこから眼鏡拭きを取り出す。

 丁寧に、レンズを一つずつ拭いていく。

 あれ? 全然取れない……。


 私、何か脂っぽいものでも付けちゃったかな。

 それとも、私から出た汚れとか……。


 そうだとしたら、なんだk恥ずかしいな。

 拭いた手前、これで黒板を見るしかない。

 眼鏡を付けなおして、黒板を見るがやっぱり見えずらい。

 うー……。どうしよう.....。


「眼鏡ってさ、曇ることよくあるよね」


 関口君が話を続けてくれる。


「僕さ、眼鏡クリーナーっていうのを持っているから、良かったら使ってよ」


 汚れが取れていないのわかっているんだね。恥ずかしい……。

 関口君の方を見るが、どんな表情をしているのか良く見えなかった。

 だけど、親切には答えたいな。


「ありがとう、使わせてもらいます」


 眼鏡を取って、関口君から渡された眼鏡クリーナーを眼鏡に向ける。

 眼鏡に向けてプシューとクリーナーを出すと、泡がもこもこと眼鏡の上に乗っかった。

 すごい。楽しい。

 もくもくしてる。


 自然と口角が上がってしまう。

 これを一旦ティッシュで拭いて。

 それで、眼鏡拭きで綺麗にふき取った。

 そんなことをしていると、関口君が話しかけてくる。


「原さんってさ、眼鏡無い方が良いかもね」


 関口君の方を恐る恐る見てみるけど、眼鏡が無いからどんな表情をしているか全然見えない。


「ありがとうございます。けれど、眼鏡無しじゃダメです。関口君の顔も見れないよ」


 眼鏡をかけて関口君の方を見ると、くっきりと綺麗に見えた。

 なんだか、関口君の顔は少し赤らんでいる。


「なんだかいつも以上にはっきりと見えます。眼鏡があると関口君の顔もカッコよく見えますよ」


 そう言うと、関口君はもっと顔を赤くして、黒板へと向き直ってしまった。


「見えるようになったら、黒板移しちゃいなよ」


 ふふふ。

 恥ずかしさをごまかしているのか、関口君は一生懸命に黒板を清書していた。


 黒板もはっきりと見える。

 眼鏡クリーナーって良いですね。好きです。

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