カラス
夕方の帰り道。
まだまだ残暑が厳しいけれど、着実に季節は変わっているんだよね。
長くなった自分の影を追うように家路を目指す。
影は段々と長くなっていく。
夕日が出ていると思ったが、日が落ちるのも早くなってきていた。
歩いていたら、家に着く前に暗くなり始めてきた。
次第に、影は闇へと溶けていった。
最寄駅からの帰り道に公園がある。
いつもは小学生くらいがいっぱい遊んでいて騒がしいけれど、今日は早く帰ってしまったのか声はしなかった。
暗い中で、一つのブランコが動く音が聞こえた。
なんだろうなーって思ってみると、一人の男の子がブランコで遊んでいるようだった。
こんな遅い時間に一人で遊んでいるなんて、危ないよね。
この近くの住民としては、言わないといけないかな。
何かあってからじゃ後味悪いし。
公園へと入り、男の子の元へと歩く。
近くに行くと、小学校低学年くらいの小さい子だった。
「ねぇ君? もう暗い時間だからおうちに帰ろう?」
「やだ」
なんだか、拗ねてるみたい。
友達ももう帰ったと思うのに、なんでこの少年は帰らないんだろう。
一人で遊んでも楽しくなさそうなのに。
実際楽しそうな顔はしていない。
家に帰りたくない理由でもあるのかな。
そういうこともあるよね。
昔、私もそんな時期あったな無理やり聞かれるのも嫌だよね。
「じゃあさ、お姉さんと一緒にブランコして遊ぼうか」
「へ?」
予想外の私の反応に鳩が豆鉄砲を食らったかのような顔をしていた。
私は、ブランコの前の鉄の柵を跨いで、少年の隣のブランコへと座った。
後ろへと下がって、足を離してブランコを漕ぎ始める。
暗いとばりに向かって足を出すのは、不安はあるけどなんだか気持ちが良かった。
「ねぇ、ブランコって楽しいね!」
「いや。楽しくないし」
「はは、じゃあ何で一人でブランコしているの?」
「帰りたくないから」
「なんで帰りたくないのかな?家って楽しいじゃん。寝っ転がれるし、美味しいごはんもあるし」
「そんなの無いんだもん」
ブランコに乗っていると、話してくれる少年。
家で何か問題があるんだね、きっと。
「じゃあさ、私の家来る? 美味しいご飯作ってあげるよ」
「何それ。美味しいの本当に? お姉ちゃんってとっても不器用に見えるよ」
このくらいの時期の子って正直だよね。傷つくな……。
私が言い返せないでいると、少年は自分から話してくれた。
「今日、パパもママもいなくて婆ちゃんだけ。だから帰りたくない」
「……そうなんだね」
何も言い返してあげられなかった。
知らない他人におせっかい掛けるのも、私だったら嫌だし。
他人に家庭をどうこう言われたくないよね。
「少年、カラスが鳴くからさ。帰ろう」
「は? 何それ」
私は、笑って答えて上げた。
「色んな文句があるのなら明日聞いてあげるからさ。今日は家に帰って、カラスについて調べてきてください。私、カラスが好きなんだ。明日、お姉さんにカラスの事教えてよ」
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