宝くじ
最寄りの駅前に、小さな宝くじ売り場がある。
そこまで大きい駅じゃないんだけど、そこには『高額当選者が出ました』っていう張り紙がしてあることが多かった。
この駅の近くに、宝くじをいっぱい買う人が住んでいるのかな? それとも、運が良い人が住んでいるのかな?
けど、やっぱり単純に、ここの宝くじ売り場が『幸運の宝くじ売り場』なのかな?
なんでだろうなーって、いつも横目で通り過ぎていく。
◇
高校からの帰り道。
部活があると、夕飯前位の時間になっちゃうんだよね。
通勤ラッシュに巻き込まれるから、部活の疲れと二重で疲れちゃう。
人で溢れる改札口を出ると、いつもの宝くじ売り場にすごい行列ができていた。
いつもとは全然違う光景であった。
今日は何か運勢が良い日なのかな?
『大安吉日』とか、そういう日にゲン担ぎをして宝くじを買うってあるよね。
特に、ここの宝くじ売り場は『幸運』を持っているみたいだし。
こういう日に、私も宝くじを買ってみるっていうのも良いのかもな。
ちょうど宝くじを買っている人は、希望に溢れたような嬉しそうな顔をして買った宝くじを財布にしまっていた。
私も買いたいっていう思いもあるけれど、私の少ないお小遣いじゃ絶対当たらないだろうな……。
いつものように、宝くじ売り場を横目に通り過ぎようとすると見慣れた顔があった。
「……あれ? お父さん?」
私のお父さんが、宝くじ売り場に並んでいたのだ。
電車のラッシュの時間帯だったので、お父さんも帰ってきていたところなのだろう。
それでこんな時間に宝くじを買うんだ?
私はお父さんに近づいて行って、話しかけた。
「お父さん、お仕事お疲れ様」
私がそう言うまで、私の存在に気づいていなかったらしくて、びっくりしていた。
「わっ。びっくりした。
私は、うんと頷いた。
そしてそのまま、お父さんと一緒に宝くじ売り場の行列に並んだ。
「お父さんって、宝くじ買うんだね?」
「これか……。バレちゃったか。ははは……。お父さんは、宝くじが好きなんだよ」
秘密がバレちゃった子供のように、何だか照れ臭そうにしているお父さんが新鮮だった。
「知らなかったよ。もしかして、お母さんにも内緒で買っているんでしょ?」
お父さんは、下を向いて小さく頷いた。
「実は、毎シーズン、宝くじを買ってるだよ。サマージャンボとか、年末ジャンボとか……」
どのくらいかっているとか、どんな気持ちで買っているとか、気になっちゃうな。
私はちょっと返答に困ったけど、一言だけ返した。
「良いね」
私がそう言うと、お父さんはさっき宝くじを買っていった人のように、明るい顔になった。
「宝くじが当たったらな、お前とお母さんに全部あげるつもりなんだよ。お前たちが嬉しそうに笑ってくれるのを想像していつも買うんだ。それがとっても楽しくてな」
なんだか楽しそうな顔のお父さん。
宝くじって、当たる当たらないって言うのを真っ先に考えちゃうけれど、当たった後を『想像する楽しさ』を買っているのかなって思った。
そういうお父さんが、ちょっと可愛く思えた。
「お父さん。宝くじ当たったら、家族みんなで一緒に使おうね!」
「うーん……。お父さんはみんなの笑顔が見たいだけだから、お父さんの分は無くてもよくてだな……」
そういうお父さんがしゃべるのを遮る。
「私が、お父さんが笑顔が見たいの。そういう想像を買える宝くじっていいよね。私好きかも」
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