野菜ジュレ

 人差し指をスーッと滑らせて、スマホ画面をスクロールする。

 素早く流れていく画像たち。

 そこで目に止まるものこそが『映え』なのです。



 SNS上で『映え』を求めてしまうのはよくあることで。

 いっぱいいっぱい流れてくる情報の波の中を、スイスイーっと泳ぐように指を滑らせる。


 これ! 『映え』だ!

 小さな立方体に切られたジュレ。

 薄い緑色、赤色、オレンジ色。

 どれもキラキラと、輝いて見える。


『映え』っていいよね。

 カラフルな色だったり、キラキラに輝いていたり。

 見てるだけで、私は幸せな気分になるんだ。


 だからほら、私の爪もいい感じにキラキラさせてるんだ。

 つけ爪って、手入れが大変なんだよ。


 けど、私の彼氏は全然分かってくれなくて。

 邪魔じゃないの?って聞いてくる始末だし。


 そんな彼だから、『映え』の良さを教えてあげると言って、このお店までやったんです。


 前にSNSで紹介されてて、ずーっと来てみたいと思ってたんだよ。


 綺麗に髪をポニーテールに結ったお姉さんが、銀色の丸いお盆を片手に持って、姿勢正しく歩いてきた。

 身長も高めで、スラーっと足が長いお姉さんはスーツ姿をしている。


「お待たせしました」


 机に持ってこられたのは、キラキラと赤く光る宝石のような野菜ジュレ。


「こちらは、岡山県産のトマト使ったジュレでして……」



 お店の雰囲気とあいまって、お姉さんの言葉も私の耳には、キラキラと光り輝く音のように聞こえてくる。

 綺麗だなぁ……。お姉さんも、このジュレも……。


 前に座っている彼を見ると、彼もいっしょになってお姉さんに見とれていた。


 ちょっとちょっと。

 それはダメだよ。彼女の私と一緒に来ているのに。

 細い眉毛と同じく、目も細めて。

 口も横に伸びちゃってるじゃん。にやけちゃって……。


健也けんや、いつまでも見とれてないで!」

「ん? おお」


「この『映え』てるジュレを食べに来たんだよ! これはね、『映え』と美味しいを兼ね備えてるんだよ? それにプラスして、野菜だから健康にもなれる。最高じゃない?」

「そうなのか。ごめんごめん。これがメインだったもんな」


 お姉さんを見た時のニヤニヤが継続してるのが、ちょっと気になるな。


 なんだか悔しいから、持っていた髪ゴムで髪を結ってポニーテールにした。

 さっきのお姉さんと同じ髪型。


 食べる時は髪を整えないとだしね。食べるのはジュレなんだけどね。

 健也は心ここにあらずだから、私が先に食べてみる。


 小さくて、ゼリーみたいな見た目なのに、味はトマトを食べているようであった。

 それも普通のトマトよりも濃厚な味。

 かと言って、しつこくない。

 ゼリーみたいな舌触りによって、滑らかに舌を滑っていくのがそうさせているのかもしれない。

 計算されつくされているよ、この食べ物。

 すごいよ。


 見た目も。ふるまいも。中身ももちろん。

 さっきのお姉さんみたいだな……。


 それが究極の食べ物、野菜ジュレなのですね。

 これには、さすがに勝てないね。


 私も、羨むだけじゃなくて、野菜ジュレを目指そう。


「野菜ジュレは、凄いよね。今の時点では私の負けです。けど私もそうなれるように頑張るよ。好きだからさ、目指したいんだ!」

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