冒険

 長い通学路。

 私の家は、学校から遠い。


 夏休みが明けたばかりだと、外はまだまだ暑かった。

 日影が無いところは特に暑い。

 そんな道が長い間続く。


 学校が始まってしばらくは、半日授業。

 学校から帰る時間は、ちょうどお昼の十二時くらい。

 それって、一番暑い時間帯だよね。


 お腹も空いたし、夏休み明けはこれが一番辛い。

 家に向かって通学路をしばらく歩いていくと、大きな木が生い茂る神社がある。

 そこまで来ると、少し日陰がある。


 小走りする元気もないので、だらだらと歩いて日陰に入る。

 日陰は、日向に比べてとても涼しく感じる。

 日陰の中で浴びる風は、秋を感じさせた。


「ふう。ちょっと一休みしようかな」


 お腹空いたことよりも、暑さがちょっと辛い。

 ここで少しだけ休憩して、水筒の麦茶でも飲もうかな。


 そう思っていたら、私の足元に三毛猫が歩いてきた。

 尻尾を立てながら、私に擦り付けてくる。

 私の右足を一回りしたら、こちらを向いて「にゃー」と鳴いた。


「猫さん、可愛い鳴き声だね」


 可愛らしい声で鳴かれちゃったら、こうするしかないよね。

 私はしゃがんで、三毛猫を撫でてあげる。


「可愛い子だね。どうしたのかな? もうお昼だから餌でも欲しいのかな?」

「にゃー」


 小さな口を開けて、可愛く鳴く三毛猫。

 細い目をしていて、まるで笑っているみたい。


 しばらく撫でていたら、三毛猫は私の手を振りほどいて神社の境内へと入って行った。

 なんだか、こっちへ来いって誘っているみたい。

 着いていってみようかな。


 少し神社の境内へ一歩入ってみると、そこは別世界のように涼しかった。

 私が少し驚いて立ち止まると、三毛猫は振り返って私を呼んでくる。


「にゃー」

「うーん、しょうがないな。ちゃんと着いていくから待ってね」


「にゃ」


 境内には誰もいなかった。

 猫さんは、その中を自由に歩いていく。

 自由な猫さん。


 ここは猫さんのお庭なのかな?

 たまにこちらを振り返りながら、猫さんは神社の裏側へと向かった。


「猫さん、どこへ行くんだい?」


 導かれるままについていくと、さらに涼しい場所へと連れてこられた。


「ここすごい涼しいよ、猫さん。こんなところ知っているんだね。すごいね、猫さん」


 そうやって褒めると、目を細めて鳴いてくれた。

 それがきっと、嬉しい表情なんだねきっと。


 神社の裏側には、猫の餌ようと思われる銀色のお皿が置いてあった。


「にゃー」

「そうか、ここに餌を入れて欲しいのかな? 私、何にも持っていないだけども麦茶じゃダメかな?」


 そう言いながら、少しだけ注ぎ入れた。


「にゃー」


 そうすると、猫さんは嬉しそうに麦茶を飲んでくれた。


 ふふふ。良かった。

 私も水筒のコップにお茶を入れて飲んだ。


「猫さん、ここって良いね。初めて見る場所。私と猫さんの秘密の場所だね」


 日の光は高い木々に遮られて、吹き抜ける秋風は涼しい。

 この場所って、とっても良いね。


 猫さんに連れられて、私にとってはちょっとした冒険だったな。

 ありがとう猫さん。冒険、楽しかったよ。私、冒険って好きだよ猫さん。

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