ジェラート

 学校の補習帰りに、駅前のジェラート屋さんに立ち寄る。


 私としたことが、学期末のテストで赤点を取ってしまって、夏休みに補習を受ける羽目になってしまったの。

 リアクションが古いってよく言われるけど、トホホなのです。


 補習は全部分かってる内容だった。

 テスト問題の解説があったけど、私は多分ケアレスミスで一つずつ回答欄がズレちゃっていたのだ。

 そんなことで赤点を取ってしまって、こんな暑い日にわざわざ補習まで受けに来て。

 悲しい気分を晴らそうとジェラートでも食べたいなって思って。



 夏のジェラート屋さんは、いつ来ても混んでいる。

 ふと見ると、前には同じく補習を受けてた美保子みほこさんがいた。


「お疲れ様、美保子さん」


 そう声をかけると、美保子さんは私に気づいてくれた。


「あ、委員長! ‌おっつー!」


 笑って答える美保子さんは、ギャルっぽい。

 というか、ギャルです。


 金髪に染めた髪で、濃いめのメイク。

 髪は少しウェーブをかけてて、見た目は完全にギャルそのもの。

 けど、今日補習で初めて話してみたけど、根は良い子そうだった。

 私と美保子さんは、一緒になってジェラートの列に並んだ。


 何を話そうか迷ったけど、こんなところで補修の話をしてもつまらないと思って、せっかくならジェーラトの話をしてみようって思った。


「ジェラートとアイスって、何が違うんだろうね」


 言ってから、やってしまったって思った。

 なんだか、子供っぽい質問をしちゃったな……?

 私は多分、美保子さんからは大人っぽく見られてるから、幻滅されちゃうかも……。



 美保子さんを見ると、眉間に皺を寄せて少し真面目な顔をしていた。

 いつもはヘラヘラと笑ってるのに……。


 これは、やってしまったな……。



「私が分かると思う?」


 美保子さんはそう答えると、すぐ笑顔に戻った。


「どっちも美味しいから良いじゃん」


 そう言って、スマホをいじりだした。


 つけ爪をつけてる手で、器用にスマホをいじってる。

 毎日手入れしてるって言ってた綺麗なつけ爪。


「委員長にも分からないことあるんだね? ‌テストも回答欄一つ間違えちゃうとこあるし。実は天然?」


 私は答えに困ってしまう。


「いいよいいよ、私の中では委員長ちゃんは天然ちゃん。みんなには内緒にしておくから大丈夫だよ!」


 美保子さんは、スマホをいじる手を止めて、口元に人差し指を持ってきてウィンクをした。

 内緒っていうポーズ。


 ……可愛い。


 それで、スマホへまた視線を戻すと、美保子さんの方から話始めた。


「調べてみたよ! ‌にゅうせいぶんの、がんゆうりょう、ってのが違うらしいよ! ‌ミルクって言うよりもフルーツ成分を楽しむらしい!」


 スマホいじってると思ったら、調べてたんだ。

 私の何気ない疑問について。

 美保子さんって、やっぱり真面目。


 なんでギャルの格好してるんだろ……?

 気になっちゃうな……。


 また子供っぽい質問をしちゃうのもな……。

 私は、すごく険しい顔をしてたと思う。

 美保子さんが心配そうな顔で聞いてきた。


「委員長ちゃん 、そんな悩まなくていいよ? ‌ダブルっていう選択肢もあるし、なんなら二人でジェラートの分け合いっこしようか?」


 そういう悩みじゃなかったけど、心配してくれる美保子さんは優しい。


「委員長ちゃんは、何味が好きなの? ‌先に話し合って四つ分味決めちゃおう」


 もう分け合うこと前提で話が進んでる。

 なんかそれって、カップルがするやつみたいになるよね。


「委員長ちゃん、嫌い?」


 ちょっと、ドキッとする。

 可愛いなって思っちゃう美保子さん。

 もちろん、聞いてきたのはジェラートの話であって、美保子さんを好きとか嫌いとか、そういう話は一切してなくて。


 何で意識しちゃうんだろう。

 まったく私ったら。


「私は、どんなジェラートでも好きだよ! 甘くて酸っぱいフルーティなものが一番好きかな」

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