サマークリスマス

 夏の暑い日。

 夏休みももうすぐ終わっちゃうっていうから、思い出作りに海まで来たんだ。


 さっきまで海に少し入っていたけど、疲れちゃったから浜辺でおやすみ中。

 そうやって、気ままに過ごす海も私は好き。



 浜辺に敷いたビニールシートの上で横になる。

 海に入ってないと、砂浜はとても暑く感じる。

 ビニールシートの上だろうと、砂浜の暑さはビニールを通り抜けて私の肌まで伝わってくる。


 隣にいる雅弘を見ると、微笑んでくれる。

 私もそれに応えて微笑む。


 まったりと過ごしているなら、漫画喫茶とかカラオケとかと変わらないかもだけど。

 私はこういう海が好きなんだ。


 海が近いからって、風が涼しいわけでも無い。

 けど、いくら汗をかいても気にする必要も無くて。

 まさに夏を感じられる。

 ありきたりだけど、雅弘まさひろとの夏の思い出。



 毎年、私が海に行きたいって言うワガママを言うけど、雅弘は飽きずに私に付き合ってくれてる。

 私と雅弘は、彼氏彼女の関係なんだけど、なんだか腐れ縁って感じで続いている。


 ずーっと、こんな感じで同じ夏が続くのかなって思う。

 それはそれで、私は幸せなんだよ。


 けど、雅弘は私に飽きちゃうんじゃないかなって、ちょっと不安だったりする。



 一人で過ごすことなんてほとんど無くて、いつも雅弘と一緒。

 一人でいることなんて思い出せないな。


 夏に冬を思い出すことなんて無いみたいに。

 こんなに暑いのに、寒い季節なんて思い出せ無い。



 転がってる雅弘の顔を見て、私から何気なく話し出す。


「こんな夏がずーっと続けばいいなって思うよ。冬なんて無くてさ、クリスマスとかも夏にあればいいのにね」


 そんな話をしてたら、白い粉が空から降ってきた。

 その粉が私の頬に落ちてきた。


「なにこれ、冷たい」


 驚いて起き上がってしまった。

 大量に降ってきていた。


「……雪?」


 まさに雪だった。

 夏の砂浜になんで雪なんか降るの?


 そう思って周りを見渡すと、スキー場にあるような雪を降らせる機械が砂浜に出ていた。

 その近くに、海水パンツ姿に青い帽子を被った小太りのおじさんが立っていた。

 髪は白髪で、白い髭を生やしている。


「メリーサマークリスマス!」


 おじさんはそう言って、こちらに向かってきた。

 雪を降らせる機械の後ろにあった小袋を持ってきた。


「夏にもクリスマスをするんだよ。夏だから青色のサンタクロースさ!」


 おじさんは私と雅弘に袋をくれた。

 袋の中にはキンキンに冷えた、スポーツ飲料のペットボトルが入っていた。


「アツアツの二人にプレゼント! ‌アツアツも良いけど、たまに水分補給は忘れずにね!」


 そう言ってウインクすると、違う人にも袋を配っていった。

 夏なのにクリスマスが来た。


 雅弘と顔を見合わせてしまった。


「夏なのに、クリスマスだね」

「サマークリスマスって言うらしいね」


 貰ったスポーツ飲料を、乾杯して飲み始めた。

 それは、とても冷たくて。

 体の中にスーって入ってくる。


 暑いのに、クリスマスが来た。

 サマークリスマスって言うんだ。

 初めてだったけど、私は好きになった。

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