ポテトチップス

 自由研究って、結局なにをやればいいんだろ。

 好きなことを調べていいよーって言われても困っちゃう。


 好きなことをやっていったら、それを否定された時のダメージが大きい。

 去年、私はやらかしたのよ。


 中学生になった最初の年で気合いも入ってて。

「興味があることを好きなようにまとめてきて下さい」って言うから、私は好きなアニメのことを一生懸命にまとめたんだよね。


 キャラクターの紹介から始まって、キャラクター同士の関係性を図にしたり、ストーリーを時系列順に並べたり、各話のセリフも全部書き出したんだよ。

 その中で私の心に響いたベストスリーなんてものも書いたの。

 自由研究発表に備えて、発表内容をフルに暗記してセリフ読み上げてたら、「そういうことじゃないんだよね……」って先生に注意されて。



 よく分からない暗黙のルールは作らないで欲しい。

 常識とか、誰が決めるんだーって思っちゃう。


『ルールは俺がぶち壊す!』


 そんなセリフもあるアニメだったんだよ。

 そうできればよかったんだけど。

 現実にはルールがあって。私は家に帰ってから泣きながらまとめた自由研究を引き出しに閉まったの。

 鍵をかけて。永遠に閉じ込めておこうって。

 さすがに捨てるのは悲しすぎるからね。


 自由研究かー。

 何をすればいいのやら。


 ――コンコン。


 部屋のドアがノックされた。


「お姉ちゃーん。お母さんからおやつの差し入れ持ってけって言われたよー」


 妹の友紀ゆきが部屋に入ってきた。

 手に持っていたお皿を勉強机の上に置いてくれた。

 お皿には、ポテトチップスが大量に乗っていた。


「ありがとう、いつもはこんなに多く盛ってないのにどうしたの?」

「お母さんがね、去年のお姉ちゃんの自由研究は最高だったよって。今年も自由に研究しなさいだって」


 そう言うと、妹はすぐに部屋を出ていった。

 けど、何か忘れたのかすぐ戻ってきた。


「言い忘れてた。お母さんは、『私がルールなんだからね!』のセリフの方が好きだってさ」


 そう言うと、またすぐに部屋を出ていった。



 去年まとめたアニメのセリフ。

 私としては、ランキング外にしていたセリフだけど、自由研究のレポートには小さくピックアップして書いてた。

 お母さんがこのアニメを見てるわけないし、私の自由研究を覚えてくれていたのかな……?


 去年は気合い入れ過ぎて、お母さんに向けて発表練習してたからなぁ……。

 私としては真っ黒な黒歴史だと思ってるのに、お母さんはそれでも応援してくれてる。


 なんだか、ちょっとだけ嬉しいな。


 差し入れのポテトチップスを食べると、甘い味がした。

 これ、私の一番好きな『幸せバター』味だ。


 お母さんってば……。




 よし! ‌頑張ろう!

 誰に何言われようと、好きなことを研究するのが自由研究!



『私がルールなんだからね!』


 お母さん、ありがとう。

 ポテトチップス美味しいよ。私の一番好きなおやつ。

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