金のしゃちほこ

 大きい道路の真ん中に、大きな塔がある。

 整備された道で、どこまでも真っすぐ続いているように見える。

 そんなところにある塔は、まるでエッフェル塔のように美しく見えた。


「この塔ってすごく綺麗だね。まさに街のシンボルマークみたい」

「いいでしょ。ここを通るの私好きなんだ」


 夏休みを利用して、私は麻衣子まいこを訪ねて名古屋まで来たのだ。

 初めての名古屋を、麻衣子に案内してもらっている。


「この道を少し外れると、名古屋で有名な『モーニング』のお店もあるんだよ」

「私、『モーニング』食べたことないんだ。明日にでも連れて行って」


 そんなことを話しながら街をぶらぶらと歩く。



 中学校を卒業すると同時に、麻衣子は名古屋に引っ越したのだ。


 高校に入学して最初の夏休みだから、離れていたのは四カ月ほどだった。

 ずっと一緒にいることが多かったからか、話のテンポはすごくあっていた。

 けれど、なんだかこの四カ月で、ずっとずっと大人っぽくなったように見えた。



 これって、もしかして……。


「麻衣子って、とか出来たりした?」


 きっとそのはず。

 私といた時は、全然男の子の話なんてしなかったけど、高校に入ってきっと変わったんだ。


「えへへ。何でわかったの? 私指輪とかそういうのはしないけれど。化粧とかもそんなに変わってないよ?」

「そう思っているのは、本人だけだよ。私にはわかります」


 麻衣子は、おかしいなーって不思議がっていた。

 私といた時は、化粧の『け』の字も無くって。

 ただただ、食べ物の話をしていたくらいだもん。

 こんなところを歩くなんていうのがまず、変わったところ。


「どこで知り合ったの? やっぱり高校?」


 私から尋ねてみる。

 麻衣子は自分の夢中なことならすぐ話してくれるからね。



「……うん。今度紹介するね。彩香あやかに似てる子だよ」



 私に似てる子なのか。

 結局、付き合うのはなのか。


 そうだとしたら、私たちは無理やり別れなくても良かったんじゃないかなって考えがよぎった。

 遠くへ引っ越すっていうのをきっかけにして、もう女の子を好きにならないのかなって。


 けど、口には出さない。

 私たちは、もう終わってしまった関係だもん。



「その子と、こういうところ歩いてるんだね」


 麻衣子は、うんっと首を縦に振った。


 やっぱり、ちょっと切なくなるね……。



 ……今日だけは、昔の関係に戻りたいな。


 そう思って、麻衣子の手をそっと握る。

 顔は恥ずかしくて見れなかった。

 麻衣子は私の手を拒絶するでもなく、優しく握り返してくれた。



「この道が、どこまでも続けばいいね」


 私がそう言うと、麻衣子もうんって頷いてくれた。



「この道の先には何があるのか、私は知っているんだけどね……」


 少し寂しそうに麻衣子が言う。


「せっかくだからさ、そういうのは忘れて、最後まで歩こう」


 暑い日差しの中で、二人で手を繋いで歩く。

 懐かしい思い出話をしたり、麻衣子は今の彼女のことも話してくれた。

 悲しくもあるけれど、楽しそうに話す麻衣子を見れるのは嬉しかった。



「この道の終着点の名古屋城。天守閣についている『金のしゃちほこ』の由来って火事に鳴らないようにっていう願いを込めたんだって。火を消してくれるようにって」


 この先に待っている、二つの金のしゃちほこ。

 私たちの恋の燃えカスは、そこで消されてしまうのだろう。


 中学校で終わったんだよ私達の恋は。

 ここでスパッと諦めて、次に進まないと。


 麻衣子とは、これからもずっとだもん。

 歩いているうちに、私の決心も固まってきた。

 

 もう少しで、名古屋城が見えてくる。

 もう、踏ん切りをつけよう。


 今までありがとう、麻衣子。 

 これからは、としてあらためてよろしく。


「私は、二匹の金のしゃちほこって好きだよ。あの子たちずっと向かい合って笑ってるもんね!」

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