俳句

 近所の地区センターに集まって、みんなで夏休みの宿題をする。

 誰からともなくそう言って集まった。

 地区センターは、空調がすごく効いててとっても快適。


 夏休みの宿題は沢山ある。

 算数と国語のドリルは仲間内で分担でもして、終わった人の答えを写そうと企てたりもしたけど、先生からきつくダメだって言われた。

「自分たちのために、しっかり考えてやりなさい」だって。


 過酷な人生を生き抜く知恵というのも大事だと思うんだけどね。

 辛い壁に当たった時は、どうすれば乗り切れるかっていうことを学ぶためにも。


 お母さんにそういう話をしたら、お母さんからもきつく言われた。

「そんなこと考えないで、早くやっちゃいなさい」って


 というわけで、しょうがないから自分の分はちゃんと自分でやっている。


 みんなで集まって勉強する分には、「全然良いよ」って先生は言ってくれた。

 むしろ皆で教えながらやるのが推奨とまで言ってくれた。


 私達の仲良しグループはいつも一緒にいて、宿題をやるにも一緒。



 特に難しいのは、国語の宿題。

 俳句っていうやつを作って来なさいっていうのが、ドリルの中に書かれている。


 俳句っていうものを勉強したからわかるけど、『季語』が大切って言われるよね。

 けど、その知識までしか無くて。

 今の季節に合う季語ってなんだろう。


 唐突に、さっちゃんに聞いてみる。


「さっちゃん、今の季節の季語ってなあに?」


 さっちゃんは、既に俳句を作り終えていたようで、答えてくれた。


「二十四節気でいうと、『立つ秋』と書いて立秋りっしゅうだよ。実は、もう秋の季語なんだよ」

「そうなの? ‌もう秋なの? ‌外はまだ暑いじゃん」


「そうなんだよ。暑さが残るっていう残暑ざんしょっていうのは、今の季節にあたる『初秋しょしゅう』の季語なんだよ」

「なるほどー。さっちゃん物知りだね!」


 確かに最近は、夜は涼しかったり、なんだか最近日が落ちるのも早くなってきた気がするし。

 もう秋になるんだね。

 そうか、こうやってしみじみと季節を思うことこそが『俳句を読む心』ってやつなのかな?


「ちなみにさ、さっちゃんはなんて書いたの?」


 さっちゃんは少しニヤッと笑って答えてくれた。


「秋深き ‌隣は何を ‌する人ぞ」


 これがさっちゃんの俳句?

 なんだろう、なんか聞いた事ある。


「冗談だよー! ‌これは松尾芭蕉さんの俳句だよ! ‌私の事が気になるって言うから、そういう気持ちでも読んでみたらいいよ!」


 難しいなー。

 私の気持ちか。


「俳句って読んでみたら楽しいものだよ! ‌17文字に気持ちが詰まってるんだよ」


 そんなすぐに思いつかないけど、俳句が良いって語るさっちゃんは、なんだか少し大人に見えた。


「上手くなくても良くてね、まずは好きになる所からだよ! ‌私は最近俳句好きになったんだ!」

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