絵日記

 毎日休みだと、なんだか飽きてきます。


 いっつも同じ天気で。

 外は、大きい入道雲が見える夏晴です。


 なんだか、ずーっと同じ日を繰り返しているのかなって思ってしまいます。

 気付かないうちに、増えていく数字。

 八月の日付はどんどん数を増しています。



 数が増える。

 そういう銀行口座でもあったら、どんなに嬉しいことか。



 否。



 数が増えると嬉しいっていう、叙述トリックに騙されるところでした。


 これは逆ですね。

 八月の日付が増えているということは、夏休みの残り日数が少なくなっていることを表しているのです。


 増えて嬉しいのは、貯金口座の額だけです。


 増えるのは基本良くない。

 お母様も言っていました。

 歳と皺は絶対に増えないで欲しいと。


 私は八月の日付だけは、無暗に増やしてはいけなかった。



 コンコン。

 お母様が私の部屋にやって来ました。


あかねちゃん、宿題の方は進んでいる?」

「はい、今やっております」


「よかった。じゃあ引き続き頑張ってね」


 お母様は、そう言うと私の部屋を出て行きました。

 ガチャッ。



 そうなのです。

 私は溜まっていた絵日記を、八月一日から遡って描いているところ。

 数週間前の私。

 なぜやっていなかったのか。


 ぺしぺしと、お尻でも叩いて差し上げたい。


 逆もまた然り。

 未来の私に、いいこいいこと、頭でも撫でて頂きたい。


 長く続く同じ日の中で、何故か今日の私だけが頑張っているのです。

 不公平じゃないでしょうか。

 昔の私、未来の私。


 もっと私を褒めてくださいませ。

 今日の日記は、『一日かけて絵日記を描きました』っていう絵日記にでもしちゃおうかしら。


 ……それはダメか。


 ううー。

 誰か助けて頂きたい。


 コンコン。

 お母様がまた私の部屋に来ました。



華子はなこちゃんが遊びに来たわよー」

「はい。今行きます」


 絵日記は一旦お預けにしましょ。



 階段を下りて玄関へと向かい、外に出る。

 絵日記地獄から助け出してくれた華子ちゃんへお礼を言う。


「遊びに来てくれてありがとう。私は今、絵日記地獄へと落とされておりましたの」

「えーー? 何それ?」


 びっくりしながらも、笑顔で答えてくれる華子ちゃん。


「華子ちゃんは、夏休みの宿題って、どこまでやった?」

「もう終わっちゃったよ? 絵日記も毎日書いてるしばっちりだよ!」


 すごいです。

 私と毎日遊んでいるのに、宿題をちゃんと全部やってて。


「私の絵日記は力作だよ? 茜ちゃんと遊んだこと、ぜーんぶ描いているだー」


 華子ちゃんにとっては、私と遊んだことが楽しい思い出なのですね。

 それはとてもとても嬉しいです。



 あれ、そうか、

 もしかしてその内容を見れば、私の消えた記憶も戻るかも知れない。


「茜ちゃんの絵日記、私と一緒に遊んでたから、私と一緒の内容の方が良いかもだよ! 私達仲良しだもんね!」


 私の小躍りしたい気分を、華子ちゃんが代わりにしてくれています。

 なんだか嬉しい気分が倍増して、私も小躍りしちゃいます。


「ちょうど絵日記持ってきてるよ! ほら見てみて、私と茜ちゃん!」


 そこには、私が可愛く、色鮮やかに描かれていました。

 二人で仲良さそうに手をつないで、笑っている。

 私の小躍りが捗ります。


「ありがとう。華子ちゃんの絵日記って、とっても可愛いです! 私この絵日記大好きです!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る