冷やしパイン
朝日が出る前から電車に揺られてる。
一緒に来たみんなの顔には、寝不足だって書いては、無いみたい。
私の顔にだけ書いてあるんだな、きっと……。
今日はみんなで海に行くって張り切ってて、日も出てくる前から出発したのです。
いわゆる、ダブルデートっていうやつ。
私と仲の良い
それも、昨日突然決めてからの、今日決行。
朝の弱い私にとっては大変でございまして。
半分寝ぼけながら、彼に手を引いてもらってどうにかこうにか電車に乗ったのでした。
みんな眠くないのかな。
と思ったけど、そんな話をする暇もないくらい元気におしゃべりしているみんななのでした。
リア充さん達は、なんだか元気です……。
◇
海についてみると、私の顔に書いてあった寝不足の文字は汗と一緒に流れ落ちた。
気分爽快!
もこもこと盛り上がる入道雲よりも、私たちの気分はアゲアゲだった。
人もほとんどいない海。
持ってきたパラソルを勢いよく立てて、そこにビーチサンダルも脱ぎ捨てて。
誰からともなく、走り出した。
それが午前中の出来事でございました。
海の家でご飯を食べてから、私はグロッキー。
やっぱり寝不足がこたえたみたいで、私一人でパラソルの下でお休みです。
みんなの遊ぶ邪魔をしたくないと思って、とりあえず浜辺にはとどまっている。
梓たちはというと、海の上にいるのが見えた。
持ってきた浮き輪に乗って、プカプカと水の上に浮かんでる。
梓の彼と戯れてる。
何で、私の彼も一緒になって遊んでるのよ、バカ。
「はぁ……」
力が抜けて、その場で横になる。
携帯をいじる気力もないし。
とりあえずタオルでも顔に掛けて、ちょっと寝ようかな……。
夏は好きなんだけど、私にはちょっと強敵すぎるんだよね。
もう少し優しく、仲良くしてくれればいいのに。
みんなも早く疲れて下さい……。
そんなことを思っていると、浜辺の砂を走る音が段々とこちらに近づいてきた。
私の顔の上に置いていたタオルを取られた。
「うう……。眩しいです……」
上から見下ろしてきてる存在があるのはわかったけど、太陽の光で全然見えない。
体を起こして確認すると、そこに立っていたのは彼だった。
「あれ? 海で遊んでたんじゃ?」
「それって、誰かと勘違いしてるんじゃない? 俺ずっと、これ買うために並んでたよ」
梓の方を見ると、梓の彼と誰だかわからない人と遊んでた。
梓って、知らない人ともすぐ打ち解けて。
そういう、モテモテなところあるよね。
「ほら、これ食べて元気出して!」
彼が私の隣に座った。
「冷やしパイン!」
手渡された冷やしパイン。
せっかく買ってきてくれたので、遠慮せずに早速一口食べる。
口にほおばると、少し凍ってるみたいだった。
口の中に冷たさが染み渡る。
そのあと、口内で溶かされたパインの酸っぱさの刺激がやってきた。
冷たくて酸っぱくて、すごい爽快感。
「これ、俺好きなんだ。夏って感じがして。少し酸っぱいところも元気になるっしょ!」
パインが美味しいっていうよりも、彼の気持ちが嬉しくてちょっと気分が良くなってきた気がした。
私の隣で爽やかに笑う彼。
彼の気持ちと混ざり合って、酸っぱさが段々と甘く感じられてきた。
飲み込む直前にはもう、激甘な口の中。
気分爽快なのです。
「私も小さいころ好きだったよ、冷やしパイン。また好きになっちゃう気分だよ。惚れ直しというやつです」
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