怪談

 夜に一人でお留守番。

 今日はお父さんもお母さんも用事だっていっていた。

 高校生にもなると、『お留守番』って歳じゃ無いけどね。


 特にご飯も用意されていなくて、お金だけ置いてあって好きに食べてって言われている。

 別に両親ともにネグレクトってわけじゃない。

 私にとっては、このくらいの方が丁度良かったりする。


 もう半分以上大人だって思うもん。

 好きにさせてくれる方が、子供のことを思っているってこともある。


 けど、ちょっと寂しいな。

 幼馴染のケンちゃんでも呼んでご飯一緒に食べようかな。

 ちょっと連絡してみよう。


「今って暇? ちょっと私の家に来ない? 今日親がいないの」


 なんか自分でメール送ってみて気付いたけど、これってなんだか変に誘ってるみたいじゃない?

 ちょっと訂正して送り直そうかなと思ってるとすぐに返事が来た。


「俺ちょっと忙しくてさ、わりぃ!」


 気にし過ぎだったか。

 けど、結局一人で過ごすのか。

 ちょっと怖いな。



 ブルブルー。



 携帯が震えた。

 誰だろう? 知らない番号からのショートメッセージだ。



「今、コンビニの前にいるの」



 なにこれ。

 ちょっと怖いかも……。


 昔テレビで見たことある、怖い話に思えてきた。

 段々と近づいてくるやつ。



 ブルブルー。



「今、郵便ポストの前にいるの」



 何気ないワードに思うけど、これって段々と私の家の近くに来てない?

 やだ、怖い……。



 ブルブルー。



「あなたの家の前にいるの」



 やだやだ、怖い怖い。

 なんでよ。

 誰よこれ。

 何で一人の時に来るの。


 怖いよ……。



 ピンポーン。



 家のチャイム。

 ……鍵締まってたはずだから、入ってこれないよね……。


 怖い。無視しよう……。



 ピンポーン。



 やだやだ。何で諦めないのよ……。



 ブルブルー。



 もう、携帯も見たくない。



 ドンドンドン。

 ドアまで叩き出した。

 どうしよう……。



 誰か助けて……。



 しばらく待つと、音は止んだ。



 今度は、電話の着信音が鳴った。

 これは、ケンちゃんからだ。

 ケンちゃんだけ特別に着信音変えてて良かった。

 少し安心できる。



愛奈えな、大丈夫か? なんか返信ないし、どうした?」

「今、知らない人が家の前にいるの。怖いよ、ケンちゃん……」



「マジか、それ怖いな。インターホンのモニター画面とか見てみたか? 親が鍵忘れて帰ってきたとかだったりしないか?」

「怖くて、見てないけど……お父さん、お母さんなら連絡すると思うんだけどな……」


 怖いけれど、ケンちゃんと話している安心感もあって、モニター画面を見てみる。

 そこには、誰も映っていなかった。

 真っ暗な家の前が映し出された映像。



 やだやだ、やだやだ!

 なんで!



 その時、鍵が開いた音がした。


「どうしようケンちゃん! 助けて……」



 すぐに走る足音がして、なにかが勢いよくリビングに入ってきた。



「お待たせ!」


 入ってきたのは、ケンちゃんだった。



「なんで、ケンちゃんが私の家に……?」

「いや、呼ばれたから来たんだよ!」


「けど知らない番号からメッセージ……」

「あ、それ俺の新しい携帯からのメッセージ! 登録しておいて」


「けど、電話はいつものから……あ、これはLineか……」

「俺が来たから、もう大丈夫だよ!」


 ケンちゃんはそう言って、私の頭をポンポン撫でてくれた。


「さっきインターホン鳴らしたのに出ないしさ。まったく、怖がり過ぎだよ」


 なんだかケンちゃんに驚かされたのが悔しいけど、呼んだらすぐ来てくれたのは嬉しかった。

 こういう、驚かせてくるところもあるけど、それも含めてケンちゃんが来てくれたって思う。


 安堵した私に、ケンちゃんはイタズラっぽく笑った。


「ちょっと涼しい思いも出来て良かったんじゃない? 俺は怪談とか人を脅かせるの好きだからさ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る