ピアノ
私は小さいころからピアノの練習をしている。
音楽を聞くのが好きだし、それが自分でできるようになっていくのが楽しかった。
徐々にだけど、上手くなっている実感もあった。
結構長い間続けていたんだ。
始めたのは、4歳くらいかな?
小学生の頃は、何回もコンクールにも出たことあったし。
中学生になっても、部活に入らずにずっとピアノの練習をしてて。
ただ、一回も賞をもらったことは無かった。
いつか才能が開花するって信じてお母さんは続けさせてくれたけど。
それに応えることはできなかった。
高校生になって、きっぱりと辞めてしまった。
けど、何かの部活に入るっていうことはしなくて。
ただ、呆然と過ぎていくだけの青春。
私の今までの苦労はなんだったんだろうなって。
「
ピアノを続けていたことでの資産といえば、
美知子ちゃんは私と一緒で、賞ももらったことは無かったけどずっと一緒のピアノ教室で続けていた。
私が辞める時に一緒になって辞めちゃったんだ。
美知子ちゃんの方が上手いし、続けていればいつか賞だってとれそうだったのにって思った。
私の今までって何だったんだろうなって思い返す日がよくある。
何もしないで、ぼーっと空を見上げてる時に、ふと手が勝手に動いたりする。
……ダメだな。
私には才能が無いからやめようって思ってるのに。
意味の無いことをして、人生を無駄にしたくない。
高校では、ピアノの練習をしていたような時間を勉強にあてて、良い大学に行くんだって思ってる。
駅までつくと、駅前の改札広場のところに、ピアノが置かれていた。
期間限定で、駅前に設置するっていう看板も立てられていた。
「ピアノだよ! Youtubeで見たことあるね、こういうの弾くの」
大体人だかりができていたりする。
よく動画で見たりするけど、そういうの良いなーって思ったりする。
道行く人を楽しませているんだって。
私は、今更ピアノなんて。
そんなことやって、何になるのかなって。
「せっかくだから弾こうよ。わたし、由奈ちゃんのピアノとっても好きだよ」
手を強く引かれて、席へと座らせられた。
「じゃあ、一緒に弾こう」
連弾。
私は向かって右側に座らせられて、主旋律のパートだ。
「私たちの好きな、あのアニメの曲ね!」
そう言って美知子ちゃんはイントロのところから弾き出した。
私は弾かない。
イントロも終わりAメロへと入って、美知子ちゃんは続けて一生懸命に弾く。
私は弾かない。
「ピアノってさ、そんな難しく考えることかな?」
こちらを向きながらも、低い音程のコード部分を弾いている。
昔、私は何のために弾いてたのかな……。
美知子ちゃんは、すごく楽しそうに弾いている。
ちょっと大げさに、弾いてる手を上げたりして。
「ほら、由奈ちゃんの番だよ」
イントロ、Aメロと進んでいたので、何の曲か分かったのか立ち止まって聞く人が出始めていた。
「誰かと競い合うためにピアノ弾いてるんじゃないと思うの。自分が楽しむため、人に楽しんでもらうために弾いてるって思うんだ」
美知子ちゃんは私の方まで手を伸ばして、私のパートも弾いていく。
「ピアノ弾くの辞めちゃうと、人生詰まらないと思うよ? 私は一番になんてなれなくっても、偉い人たちに認められなくっても、通りかかりの人が少しでも楽しい気持ちになってくれたら、それだけで十分だって思う」
気付けば、サビの手前まで演奏は進んでいた。
人だかりも徐々に増えて。
みんながワクワクした顔で、美知子ちゃんの演奏を聞いていた。
「私は、ピアノが好き! 誰のためでも無く自分のために弾くよ。誰のものでもない私の人生だからね!」
そういう美知子ちゃん。
私とずっと一緒に弾いてた美知子ちゃん。
私だって、本当はそう思っているよ……。
気付いたら、私も宙で手が動いてた。
私だって、本当は弾きたいんだよ。
美知子ちゃんの手を遮るように、私も弾き始めた。
私がコンテストで上手くいかないでピアノを辞めそうになると、こうやっていつも私を引っ張ってくれてたなっていうことを思い出した。
なんで私はまた、ピアノ弾くのを辞めるって思っちゃったのかな。
やりたいだけやれば良かったのにね。
お母さんのでもない、審査員のものでもない。
私の人生だもん。
「ありがとう。思い出したよ。私も美知子ちゃんに負けないくらい、ピアノ好きだよ!」
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