吊り橋

 ボーイスカウト、ガールスカウトキャンプ。

 夏休みだけできる体験っていうことで、半ば無理やりお母さんに参加させられちゃった。


 お父さんお母さんの元を離れて、初めてお泊り体験。

 朝からとっても緊張してる。


 大きな駅に集合して、バスで現地に行く。

 パスに乗るところまでは大丈夫だった。


 バスに入ると、知っている人もいない。

 こんな中で私は過ごせるんだろうか……。


 バスは、森の中にある駐車場へと着いた。

 実際に森に着くと、不安が込み上げてきた。



 そこからバスを降りて、点呼をして。

 これから、キャンプ地へと向かうんだ。

 バスで隣にいた子とは、少し喋れるようになった。


葉月はづきちゃん、私こういうところって初めてで。なんだか森って怖いね」

「大丈夫、私も初めてだよ!」


 そう言って、笑っていた。

 初めての事なのに、笑って乗り切れるってすごいなって思った。


「私は、初めてなことって好きだよ! なんだか、わくわくするもん!」


 そう言ってる子が近くにいるだけで、なんだか心強かった。

 なんだか私もそういう気持ちが、うつる気がした。



 森の駐車場から、キャンプ場へは歩いて向かう。

 歩いている途中で、少し傾斜を上ったりするところがあった、

 そういうところは、先に進む葉月ちゃんに手を引いてもらったりしながら。


「こういう時は、『ファイトーいっぱーつ』ってやるってお父さんが言ってたよ!」


 なのことだかわからないけど、こういうことを話すのも初めてで。

 私はなんだか、それが楽しいことに思えてきた。


「ファイト!」

「いっぱーつ!」


 傾斜を登り切ると、私と葉月ちゃんはハイタッチして喜んだ。



 しばらく森を進むと、今度は一本の吊り橋が見えてきた。

 大きな吊り橋吊り橋の行く先の岸が全然見えなかった。


 周りに生えている木々に阻まれていたせいで、森の先の方もあまり見えなかったけど、橋へ向かって歩みを進めると、周りの景色も見えてきた。

 そこは少し崖になっていた。


 二,三十メートルくらいなのかな。

 うちのマンションから見える景色よりも高い。

 崖の下には大きな川が流れていた。

 綺麗な青色をしていて、川の流れる音も耳に心地よかった。


 あちら岸へ行くためには、ここを通らないと行けない。

 あちら岸とこちら岸をつなぐもの。

 吊り橋。


「さすがにちょっと怖いかも」


 葉月ちゃんが弱気なところを見せたけど、「それーっ」っていいながら吊り橋に一歩踏み出していた。


「大丈夫だよ! ほらほら、美柑みかんちゃんも来なよー!」


 私に手を差し出してくれる。

 楽しそうな葉月ちゃんを見ていると、わくわくする気持ちも湧いてくる反面、怖いっていう気持ちも強くなる。


「怖いって言って、その場に留まっているだけじゃ、何も変わらないよ!」


 ニコッて、笑って誘ってくれる。


「このキャンプに来るって、自分で決めることができたじゃん! 美柑ちゃんならできるよ!」


 まだ私は、躊躇してしまう。


 けど、その通りだって思う。

 ここに来るって決めたのは私だもん!

 私ならできるって思うけど、やっぱり怖い。


 葉月ちゃんは吊り橋から戻ってきて、私と手をつないでくれた。


「どうしてもやらなきゃいけないことなら、何も考えないで飛び込んじゃう! 楽しんだもの勝ちだよっ!」



 私の手を引いて吊り橋の上へ。

 そこはとても高くて、揺れて。

 怖くてドキドキして。


 けど、手をつないでくれる葉月ちゃんがいるから心強かった。


「やってみると、案外どうってことないんだよ! 私たちのお楽しみはこの先だからね! こんな吊り橋なんて、走って渡っちゃおー!」



 吊り橋を渡ること自体初体験で。

 走って渡るなんて、昨日の私には考えられなかった。


 葉月ちゃんに手を引かれて。

 橋の上を吹く風は、夏なのにとても涼しくて。

 橋の軋む音でさえ、なんだか心地よく聞こえた。

 橋を渡り切って、膝に手をついて息を切らしていると、葉月ちゃんは同じ調子で話しかけてきた。


「やってみれば簡単でしょ? それで、とっても気持ちよかったねっ!」

「ありがとう葉月ちゃん。私、吊り橋、好きになったよ!」

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