ハチミツ
透明なビンに入ったハチミツが、何個も並べられている。
黄色くて、ビンの向こう側は見えない。
ドロドロとしていて、とても濃いのが分かる。
とってもきれいに感じて、見とれてしまっていた。
すると、お店のお姉さんが声をかけてきた。
「どちらか気になる商品はございますでしょうか?」
黄色いボタンが印象的な、白いワイシャツ。
皺一つないのが高級店の印象を受ける。
腰には黄色いエプロンを巻いている。
ゆるふわなパーマをかけたショートヘアーのお姉さん。
優しく微笑んで私の返事を待っていた。
「ちょっと待ってください」
デパ地下の一角にある高級ハチミツ専門店。
特に何の用事もなかったけど、ついつい見入ってしまった。
周りはがやがやと、いろんなお店が並んでいるけどこのお店は初めて見た。
私があたふたしていると、お姉さんは雑談気味に話をしてくれた。
「今月になって、こちらでやらせてもらっております」
一緒に来ていた美咲がこちらに気づいて、戻ってきた。
「どうしたのー? ハチミツ! 美味しそう!」
「こちらのハチミツ、良い物をそろえております。良ければお味にでもいかかでしょうか?」
美咲を手招きして、私の方へと近づけた。
店員さんから見えないように後ろを向いて美咲に小声で話しかける。
「……ちょっと高いってここ」
「……味見くらいなら大丈夫だよ」
そう言っている間に、店員さんははちみつ専用のハニーディップを取り出してきた。
木で作られた、先端に丸い突起のついている棒。
それを使って、試食用のハチミツのビンからハチミツを取り出した。
ハニーディップに絡めとられたハチミツ。
簡単なつくりの棒のはずなのに、全然ハチミツは垂れてこなかった。
想像したよりも濃いらしくて、お姉さんがゆすると、少しずつ試食用の小さな紙コップへと入っていった。
「こちらのハチミツ、とても濃くて美味しいので、是非とも味だでも見ていって下さい」
甘く優しく笑うお姉さんに差し出されて、ハチミツを受け取った。
美咲は、コップに鼻を近づけて匂いを嗅いでいる。
ハチミツって匂い無いのにって思ったら、お姉さんが解説をしてくれた。
「素晴らしいです。ちゃんと気づかれてて。花の匂いが香るんですよ。そこもこのハチミツの特徴です」
私は、そんなハチミツを知らなかった。
綺麗で、匂いまで良くて。
私も嗅いでみると、ほんのりお花の匂いがした。
甘すぎない香り。
お風呂の石鹸みたいな、ほんのりバラのような香り。
なんだか嬉しくなって、紙コップを傾けてみる。
濃厚で、少しずつ紙コップの淵へと流れてくる。
ゆっくりと口へ運ばれるハチミツ。
舌触りも濃厚。
解けたばかりのチョコレートみたいな。
ねっとりと口に入っていく。
けど、甘すぎず。
口の中の温度でゆっくりと溶けていく。
甘さがじんわりと口の中に広がっていって思わず笑顔になってしまう。
美味しいです。
お姉さんの笑顔もまた、甘すぎず。
「うちで独自に生育している蜂が、一生懸命集めたハチミツなんですよ。良ければお買い求めお願いします」
甘い中にもしっかりと芯があって。
ハチミツみたいなお姉さんの言うまま買いそうになるが、お姉さんが笑って営業トークをやめて、素戸主ランクに話してきた。
「少しだけ高いので、お母さんに紹介お願いします。こちらの試供品だけでも持って言って下さい」
そう言って、小さな小瓶をくれた。
優しいお姉さんのくれたハチミツ。
その小瓶を見ているだけで、甘い気持ちになれた。
「さっきのハチミツ屋さん、とっても良かったね」
「うん。お母さんに買ってって言ってみよ! 私大好きこのハチミツ!」
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