紅茶

 私と彩奈あやなは、とあるホテルの一室に来ている。

 彩奈が抽選に当選したっていうので、私はその付き添い。


 私でも名前を知ってるホテルで。

 外観からして、私なんかが入れるようなところじゃないなって思った。


 顔立ちの整ったホテルマンの人に、案内されるがまま。

 高層階の部屋へと案内された。



「こちらです」


 ホテルマンの人がドアを開けると、ほんのりと優しい薔薇の匂いが香ってきた。


「……素敵な部屋」


 うちのマンションよりも遥かに広い部屋。

 薔薇色と言えばいいのか、赤色を基調にして部屋の色調が揃えられている。


 まず目に入るのは、天蓋付きのベッド。

 薄い赤色の天蓋が柔らかそうにベッドを包んでいる。

 こんなベッド見たこと無い。

 ベッド自体も柔らかそうで、そのベットの上にはクッションがいっぱい。

 見るだけで質の良さが分かるクッション。

 大きな窓にあるカーテンも赤い。


 天井には、小さいながらも煌びやかなシャンデリアが吊り下がってる。



「……すごい部屋だね」

「これは……、すごいね」


 部屋に入ってみると、地面はふかふかと柔らかかった。

 そんなところにも感動しながら、部屋の中央へと向かう。


 リビングの真ん中には、ソファーとローテーブルがある。

 私が奥に座って、手前に彩奈が座る。


 こういう時は、お姫様っていうのかな?

 そんな風に優雅に振舞えば良いのかな?


「彩奈、ありがとうね。こんなところに誘ってくれて」

志穂しほ、前から行ってみたいなって言ってたし。せっかくだから楽しみましょう?」


 小首をかしげて、「Shall We Dance?」とでも言いそうに手を差し出してきた。

 もうお姫様になりきっているのかな?


 そんな姿に吹き出してしまった。


「あはは、彩奈のそれいいね。私も」


 私は、ソファーから立ち上がった。

 ワンピースのスカート部分の裾を掴んで、少し上げてカーテシーをしながらお辞儀をした。

 そしてゆっくりと顔をあげて。


「本日はお招きありがとうございます。楽しませて頂きますわ」


 彩奈も笑ってくれた。

「あははは。それはやり過ぎだよ」


 そんなことをしていると、ドアをノックする音が聞こえて、先ほどのホテルマンが入ってきた。


「本日は、お越しいただきましてありがとうございます。それではまずは紅茶の方を入れさせて頂きます」


 有名な紅茶店の、お食事プラン。

 本当はとても値段が高くて手が出ないんだけど、彩奈が連れて来てくれたのだ。


 ゆっくりと注ぎ入れられる紅茶も、赤い色をしていて。

 綺麗に透き通っていた。


 ホテルマンの人は紅茶を注ぎ終わると、一緒に持ってきていた三段重ねのケーキスタンドをテーブルに置いてくれた。

 そんな姿を見ながら、一杯目の紅茶の香りが鼻までやってきた。

 とても良い香り。多分アップルティーだ。


「お待たせしました。それでは、お楽しみくださいませ」

 そう言ってホテルマンの人は一礼すると、部屋を後にした。


 夢のようなひと時。

 私と彩奈はティーカップを手に持ち乾杯した。


 優しく香るアップルティー。

 一口飲んでみると、口の中にいっぱいのリンゴの香りに包まれた。

 想像したよりも味がしっかりとしてて、かと言ってしつこくなくて。


 嬉しくなって、私は彩奈にお礼を言う。

「こんなひと時をありがとう」


 彩奈も、優しく笑ってお礼を言ってくれた。

「志穂みたいな紅茶好きな友達がいて良かったって思うよ。一緒に来てくれてありがとう」

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