8月
パイン飴
幼稚園から帰る途中。
私は自転車の後ろに乗せられて、お母さんとお話して帰る。
いつもだったらそうしているけど、今日はなんだかお話する気分じゃなかった。
幼稚園の帰り道はいつも通りの道なんだけど、いつもより辺りが暗く感じた。
遠くの方の空を見ると、ピカピカと光っている。
よくよく、私たちの上のお空を見ると、太陽は隠されてしまって、お昼なのにとっても暗い。
雨が降るのかもしれない。
空ばかり観察して私がしゃべらないでいると、お母さんが心配して話しかけてきた。
「どうしたの睦美むつみ》? 何か元気がないね? 幼稚園で何かあったの?」
自転車の後ろの席に乗っているとお母さんの顔は見えなくて、背中しか見えない。
それでも、とても心配してくれているのが分かった。
「今日ね、健たけし君と喧嘩しちゃったんだ」
私がそういうと、お母さんはいつもよりも優しい口調になって話してくれた。
「何で喧嘩しちゃったの?」
「私が遊んでたのに、おもちゃ無理やり取ってきたんだもん。私が遊んでるからダメーつて言って叩いちゃった」
背中からでもわかったけど、お母さんは怒っていた。
けど、私は悪いことしてないもん。
「どんなことがあっても叩いちゃダメ! 今からでも謝ってきなさい」
お母さんはそう言って自転車を止めて、幼稚園へと引き返した。
暗い道の中を走って行った。
◇
幼稚園に戻ると、まだ健君は教室にいた。
健君のお母さんは迎えに来るのが遅いのか、一人で遊んでいた。
お母さんは、早く行きなさいと背中を押してくる。
急せかされるまま、私は靴を脱いで教室へと入った。
正直、私はまだ怒っている。
お母さんとの帰り道も楽しくなかったし、そんなことにしたのは全部健君のせいだって思ってた。
ムスッとした顔で健君の前に立っていると健君の方から近づいて声をかけてくれた。
「睦美ちゃん、さっきはゴメン。おもちゃっ取っちゃって」
意外だった。
さっきのことを反省しているのか、シュンとしている健君。
そんな姿を見たら、なんだか自分が悪いことをしている気分になってきた。
お母さんに連れられてきて、背中押されたけど。
ちゃんと自分の意志で謝ろう。
「健君、さっきはごめんね、ぶっちゃって」
「いいよ、気にしてないよ! 僕の方こそゴメン」
そんなやりとりを見ていたお母さんが、後ろから声をかけてきた。
「二人とも謝れて偉いね。そんな二人には、飴をあげましょう」
私と健君に黄色のバイン飴をくれた。
健君は笑ってありがとうって言って受け取った。
私も受け取っで、お母さんを見ると優しい笑顔が見れた。
「二人とも、仲直りに食べてみて? 前よりも仲良くなれるおまじないかけておいたから」
私と健君は、目を見合わせて少しはにかんだ。
仲直りの時に食べるパイン飴。
とても甘くて美味しかった。
さっきまで曇っていた空も晴れてきて。
健君の笑顔が明るく見えた。
パイン飴って、こんなに美味しいんだね。
この時、私はパイン飴を好きになった。
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