手持ち花火

 夏休みも部活の練習が毎日ある。

 特に夏の方が厳しくて、朝から晩までみっちりと練習をする部活もある。

 それは、練習場所を確保できている部活。


 そういったものは稀で。

 夏休みだろうと、部活同士で練習場所の取り合いをするのが常だ。

 野球部、サッカー部、ハンドボール部、陸上部。

 グラウンドの場所取りは、熾烈を極める。


 さらに激しいのは体育館を練習場所としている部活。

 バスケ部、バレー部の高身長の人達を筆頭に、他のインドアスポーツの取り合いが激しい。



 一方でプールを使う部活って使い放題だと思われがちだけど、数少ない部活二つで取り合いをしている。


 それが、水泳部と水球部だ。


 私は水球部に所属している。

 男子と女子でも練習時間が別れてたりして、プールでも一日の内に使う時間が決められているのだ。

 それも、人数の多い方から優先的に割り振られる。


 水球部女子は、大体の場合が一番最後の順番になる。

 夕方くらいから練習を始めて日が落ち始める頃に練習を終わるのだ。

 夏は日が落ちるのが遅かったり、夜まで暑い日が続いているのが救いだ。


 今日も練習終わりに、薄暗い体育館前スペースを使ってミーティングをする。


「それでは、今日も一日お疲れさまでした!」

「「お疲れさまでした!」」


 三年生の部長が挨拶をして部活を締めた。

 だけど、今日はそれで終わりではなかった。



「みんなさ。せっかく夏休みだから、花火とかしたくならないかい?」

 いたずらっぽく笑う部長。


「でも、さすがに遠くの花火大会なんて行けないしって思うじゃない? 今年も、顧問の先生に相談して花火をしていいことになりました!」


 一年生は、素直に喜んで拍手をし始めた。

 肩の筋肉や握力が強いからか、相当嬉しかったからなのか、一年生の拍手の音は爆竹花火よりも大きかった。

 拍手は、暗闇の校舎に跳ね返って来て大きく鳴り響いた。



「よしよし、良い反応! 今日来てくれていたOGの先輩方の差し入れです! 好きなだけやっていいって」


 隠していた袋が五袋程。

 その全てに、パンパンになるくらい手持ち花火のパッケージが詰まっていた。


 実は、この花火は毎年恒例行事だったりする。

 水球部に伝わる、夏の手持ち花火大会。

 私は去年初めて体験して、今年も楽しみにしていたりした。


「一年生と三年生! 好きなだけ持って行って! 二年生は、バケツの準備!」

「「はい!」」


 そう号令がかかると、部活終わりで疲れているはずの部員たちが一斉に走りだした。


「この大きいのもらいっ!」

「何本持ってもいいんですか!?」

「もちろん! 何かあったら水掛けれるように、皆水着に着替えなおして!」

「「はいっ!!」」


 楽しそうに選ぶ一年生と三年生。

 二年生も内心ウキウキが止まらない様子であった。

 部室からありったけのバケツを持ってくる。


「一年生はまだ知らないからね。花火大会の最後は水の掛け合いになるってこと!」

「それを想像しただけで、ワクワクだね!」


 バケツリレーのように、一人に何個もバケツがいきわたるように用意を進めた。

 それぞれ手に花火を持つと、皆で輪になって大きなロウソクを囲んだ。


 各自準備整っていることを確認すると、部長が号令を出した。



「今年の夏も、この花火を通じて、みんなで気合入れて乗り越えましょう! それでは、点火!」


 それぞれが、自分の持っている花火に点火し始める。

 様々な色の花火が燃え出す。綺麗な光を帯びて。


 オレンジ色、緑色、青色。

 勢いがあったり、ぱちぱちと火花を散らしたり。


 夜の闇に、一帯が明るく輝きだした。

 それはとても幻想的で。


 水球部だけに許された特別な花火大会。

 私は、水球部に入って本当に良かったと思う瞬間。


 輪になって、一斉に手持ち花火が光る景色。

 この景色。大人になってもきっと忘れないと思う。


 私の大好きな景色。

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