自由研究

 カーテンの隙間から注がれる強い日差しに起こされる。

 無理矢理、起こさないでよって思う。

 私は今日も夏休みなんだよ……。


 起きてしまったものはしょうがない。

 お腹もすいているので、ゆっくりと階段を下りてリビングへと向かった。

 リビングには、慌ただしくしているお母さん。


「おかあさん、おはようー」

「早くないけどね。もう会社行ってくるから朝ごはん机の上のやつ食べといて。あと、宿題はちゃんとやるのよ」


「……はーい」


 夏休みも始まったけど、宿題っていうのが難敵なんだよなー……。

 起きたばかりの働かない頭で考えながら、箸を動かす。

 ……今日も目玉焼き美味しい。



 宿題か……。

 一番の難題が自由研究だよね。

 今年は何やろう……。


 冷房の効いた部屋。

 寝る時のシャツのままで、リビングテーブルで朝食を食べながらぼーっと考え始める。

 そしたら、姉が階段を降りてきた。


「おはようー」

「お姉ちゃんが一番最後だよ。早くないよ」


 私と同じくだらしない格好の姉が、私の前の席に座った。


「お母さんみたいなこと言うようになったね、千早ちはやも」

「ありがと」


 嫌味なのか分からないことを言われた気がしたけど、私の頭の中は宿題のことでいっぱい。


「うーん……」


 姉は私の様子にピンと来たようだった。

「自由研究を考える。そんな時期がやってきましたね?」


 姉は呑気に私のことを観察してる。

 立って冷蔵庫からお茶を出して、自分のコップにだけ注ぎ始めた。


「お姉ちゃんも自由研究あるでしょ?」

「高校生は自由課題だからね。特にプラスにならないから誰もやらないのよ」


 そうなのか……。

 それであれば、私も早く高校生になりたいなー。

 あと、二年間の辛抱か……。


 毎年何か研究するって、そんなにネタがあるわけないじゃない。

 毎回何やろうかっていうのが決まらずに、だらだら過ごしちゃうんだよね。


 今年こそは、何が何でも最初にやることを決めちゃおうって思ってる。

 そうした方が後で苦しまないって流石に学習した。

 けど、どうしても思いつかないな……。


 ……よし。プライドは捨てよう。



「お姉ちゃん、何がいいか一緒に考えて下さい!」


 姉に向かって頭を下げた。

 こんなことは、めったにない。

 姉もそれがわかって驚いていた。


「あら、今日は素直だね。それなら、協力してあげるよ!」


 下げていた顔を上げると、いつになく優しい顔の姉がそこにいた。

 この時ばかりは、姉のことを天使様だと思った。


「大天使、美香ミカエル様ー」

「冗談は良いから、千香ちかも考えるんだよ!」


 何にしようかなー……。

 それが考えられないから相談してるのに……。


 困っている私の顔を見て、姉は得意気にスマホを取り出した。

「これが、人類の叡智え・い・ち!」


 姉は、私の隣に座ってくれた。

 それで画面を一緒に見ながら探す。

 私はスマホ持っていないから、こうやって検索してくれるだけでも結構助かるな……。


「何系がいい? 実験とかよりも、調査する系が良いと思うよ。姉の経験談!」

「そうなの? お姉ちゃんのオススメ教えてよ!」


「えっ? 私のオススメ研究するっていうなら教えるよ?」

「なになにー」


 そうやって、二人で話す時間も楽しかったりする。


「アイドル研究!」

「……却下」


「なんでよ、良いじゃん。このアイドル戦国時代に、アイドルに詳しくなろうよー」


 そんな姉と一緒だけど、二人で過ごす夏休み。

 少しだけ、楽しい思い出が出来るかなって思った。

 ウキウキと語る姉。


「こんな自由研究だった、私は大好きだよ! 好きなこと研究しよっ!」

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