スイカ割り
「スイカ割り大会なんて、なぜやろうと思ったのですか」
「大きなスイカが二つも手に入ったからなのです!」
学級委員長がもっともらしく言うけれども、なんでそういう発想になるのかを聞いたのに。
スイカがあれば、当たり前のようにスイカ割りをするのは、なぜなのでしょう?
教卓に置かれた、丸い大きいスイカ。
ビーチボールとおんなじくらいの大きさにパンパンに膨らんでいて、ボーリングの玉よりも重かった。
叩いてみると、とっても中が詰まっている良い音がする。
これは、絶対に美味しいスイカだって思った。
また委員長が叩いてみている。
耳を近づけて、片手で。
ポンポン。
「よしよし」
「それでは、皆さん。机を窓際と、廊下側にそれぞれ寄せてください」
委員長がジェスチャーで、ゆっくりと
きっと、委員長はモーゼになった気分なのだろう。
決め顔をしながら、ゆっくりと手を広げていった。
それは良いから、良いスイカを早く食べたいな……。
「それでは、割りましょう!宮本さん、佐々木さん、お二方前へ!」
「え……? 私と、宮本さん?」
宮本さんは吹奏楽部だし、私は帰宅部。
もうちょっと運動神経のありそうな人に頼めば良いのに。
「はい、宮本さんは二本の棒。佐々木さんはちょっと長い棒」
……なんとなく委員長のしたいことが分かってきたかも。
宮本武蔵と、佐々木小次郎の苗字が付いてるから私達二人が選ばれたのね。
「一人一回ずつ。割れた方が勝ちです」
まぁ、スイカ割りってそういうものですし……。
「まずは宮本さん!」
そういうと、宮本さんは眼鏡を取られて、目隠しをされた。
棒を持たせられて、委員長にくるくるーって回された。
宮本さん、文句も言わないでえらいな……。
「宮本派のみなさんは応戦して下さい!」
なにその派閥?
「廊下側の人達ですよ!」
そうなの? っていう顔してるじゃん。
それでも、廊下側の人は応援し始めた。
「もっと右!」
「まっすぐ!」
「そこだ!」
そんな応援があって、宮本さんはスイカの前まで無事に来れた。
そこで二本の棒を振り下ろしたが、ちょうどスイカの横隣りを空振りしてしまった。
二本の棒の真ん中にスイカがある形になってる。
二本だと、そりゃあ難しいよね。
これを私もやるのか……。
「次は佐々木さんてす。佐々木さんは、棒が一本だから有利かもだけど、長いからね! どこにヒットさせるかが肝心だよ!」
思いっきり振らなきゃ割れないだろうし、かといって空振りしたら恥ずかしさと、あと、変に地面を叩いちゃうと、手がしびれそう。
「はい。目隠します」
真っ暗、何も見えないね。
「回すよー」
……ダメだ。
いつぶりだろう、スイカ割りなんて。
小学3年生以来かな?
高校二年生にもなってやることになるとは。
委員長の楽しそうに数字を数える声だけが聞こえる。
「7,8,9,10! それでは、どうぞ!」
何も見えないのって、怖いよね。
平衡感覚も無いし……。
「こっちこっち!」
こっちってどっち……。
「あの、右とは左とかでお願いします」
「窓側窓側!」
元気の良いのは嬉しいけど、目隠ししてたら窓も見えないのよ。
窓は右手側で良いのかな。
「真っすぐ、真っすぐ!」
見えない道だけど、大きい声ってこういう時頼りになるな。
「ストップ! 廊下側に半歩!」
「はい」
「前へ半歩!」
「はい」
「オッケーそこから、腕は延ばさずに、剣道の竹刀を振るように地面へ叩きつけて、姿勢はよく! 長いから地面までつくよ!」
長い棒だから、根本にあたるとかは難しいよね。
先端が当たるくらいの距離感なのね。
信じてみよう。
割れるかはわからないけど。
こんな私に一生懸命声をかけてくれるっていうのが、嬉しいなって思った。
部活も入ってなくて、友達も多くない。
教室にいるだけのような存在なのに。
「俺らを信じて!」
「うちらを信じて!」
「大丈夫だよ、佐々木さん!」
「どうなっても、私たちの責任だから思いっきり振ってみて!」
……ふふふ。
みんな一生懸命に応援してくれて。
私もそれに答えます!
こういうのなら、スイカ割りって好きかもな。
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