幽霊

 夜の校舎は、なんだか気味が悪い。

 私と美乃梨みのりは暗闇の中を歩いている。


「こんなに暗いと、幽霊が出そうで怖いです」

「そんなのいるわけないって」


 下駄箱のところの扉は閉まっているので、渡り廊下の方から入った。

 体育館との間にある道。

 更衣室は校舎の中にあるからって、そこだけは開いているのだ。


 部活が終わって駅まで帰ったのに、美乃梨が忘れ物をしたっていうから戻ってきた。

 暗い校舎の中で、怖さを紛らわせるようにずっとしゃべっている。


「いや、幽霊を見たって人がいたんですよ」


 さっきから、怖いとか幽霊の話ばかりしか言わないけど。


 夜の学校は、いつもと雰囲気が違って何やら恐ろしい。

 昼間はあんなに賑わっている教室も廊下も。

 夜だと、何の音もしない。


 非常口の緑色の電気だけがついている。

 いつも見ているはずのマークなのに、怖いって気持ちが心の中にあると、なんだか歪なものに見えて。

 恐ろしく感じてしまう。


「何で忘れ物なんてしちゃうかな」

「だってー、宿題忘れちゃったんだもん。私、基本的には教科書を学校に置いていくんですけども、今日は宿題があるっていうから」


 そこら辺の事情は分からないけれども。

 階段を上って三階。

 教室に着いた。


「教科書は、机の中にあるんだよ。一人じゃ怖いから付いてきて、朱里あかり

「しょうがないなー」


 スマホのライトを付けて探す


「見つかったー?」

「あれ? なかなか見えない」


 美乃梨は教科書を探そうとして机の中にスマホを入れてしまうので、周りは暗くなってしまった。

 教室の電気くらい付けておけばよかったって思った。

 真っ暗な教室。


 誰もいないはずなのに、人影が見えたきがした。

 髪の長い女の子。


「教科書無いよー」


 美乃梨はのんきに探しているけど、私とその子は絶対目が合ってる。



 ゴクッ。


 人影は、どんどんこちらに近づいてきた。


「……美乃梨、ライト頂戴……」

「どうしたの? 何かあった?」


 美乃梨がのんびりとしているうちに、女の子は前の席まで来て、そこで止まった。

 そして、ニコッと微笑んで消えてしまった。

 何だったんだろ。


「朱里、ライトだよー」


 前を照らすと、人影もなくただの教室が見えた。


「あ、私、席間違えちゃった。私の席は一つ前だ」


 きっと、さっきの女の子が教えてくれたんだ。

 今は見えないってことは、今のは幽霊だったのかな……。

 私だけが見えてたんだよねきっと……。


 悪さをするわけでもなく、親切に教えてくれた。

 可愛い女の子。

 少しびっくりしたけど、あの可愛い笑顔を思い出すと怖いものとは感じなかった。


「美乃梨。もし幽霊がいたとしてさ、可愛くて親切な女の子だとしたらどう思う?」

「そんな幽霊さんだとしたら、私は幽霊さんって好きだなって思うよ!」

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