知育菓子

 もうすぐ夏休み。

 テスト期間も終わってみんな気が抜けてて、気だるげに授業に参加してる。

 先生も大きな仕事をやり遂げたような達成感からか、どこかふわふわしてる。


 サッカーで言うと、点差がつけられた試合のアディショナルタイムみたい。

 とりあえず時間が経つのを待つだけっていう。


 こういう時に限って時間の流れは遅く感じるものなんだよね。

 クラスの男子、部活に備えて寝てたりするし。

 お弁当を食べた後の授業なのに、これまた部活に備えておにぎり食べる男子も居たりして、先生の見てない隙にスイスイ食べてたりする。



 こういうのは、先生も見て見ぬふりなのかな?

 もう、大目に見ちゃうよね。

 そのくらい気だるげな午後の授業。



 私も、何があっても受け流すだろうなーって思うもん。

 隕石が落ちてきても、そっかーって言って受け流しちゃいそうだなー。


 窓際の席の山田君。

 彼もなかなか気の抜けた顔をしてる。

 そんなものだよね。


 野球部の彼。坊主頭をしてる。

 先輩達と廊下ですれ違う時には、大きい声で挨拶をしたりするんだよね。

 真面目だなーって思う。


 気の抜けた感じだったけど、顔を左右に二回降って。

 顔を叩いて。

 おー。こんな時にも真面目に勉強しようとしてる。

 えらいなー。


 あ、なんかカバンをゴソゴソいじり出した。

 水筒でも出すのかな?

 おにぎりで腹ごしらえかな?



 え? ‌なんだろうあれ。

 見覚えあるような……。


 お菓子のパッケージみたいな……。


 ……わかった! 

 練ると大きくなる知育菓子だ!


 山田君、マジですか。

 何が起こっても動じないと思ってたけど、私もびっくりしますよ。


 高校生にもなってですよ。

 それも授業中なのに、それやりますか?


 山田君笑ってる。

 すごくやる気満々じゃん。


 よく見たら、デラックスタイプって書いてある、

 私が知ってるやつより、数倍でっかいよ。

 それをやるんだ……。


 まずは、水を入れて。

 スプーンで水筒から水を入れるのね。

 結構入れるんだね。


 それで、『一番』って書いてある粉を入れる。

 普通に夢中になってるけど、先生は……、こっち見てないか。セーフ。


 『一番』の粉、まだ入れてる。

 量多いんだね。デラックスタイプだもんね。


 入れ終わって、それを混ぜる。


 いっぱい混ぜても、まだ粉が溶けた水だね。

 山田君不思議がってパッケージ見るけど、『一番』の粉だけじゃ膨らまないよ。

 慌てない慌てない。


 ちゃんと気付いたかな?

 次の工程で膨らむはずだよ。


 うんうん、そうそう『二番』の粉を開けて。

 それを入れる!


 良い良い。

 手際も良いです。


 混ぜて混ぜて。



 真面目な山田君。

 混ぜる時の姿勢が凄くいい。

 一応教科書でお菓子隠してるけど、目線がお菓子にいき過ぎてるね。

 背筋良いから尚更、下向いてる目線が際立つよ。


 大丈夫かな?

 あ、先生がこっち向いた……。

 ……特に気づいてない?

 セーフ?


 あ、目を離した隙に膨らんでる。

 それを見てる山田君、ニヤケ過ぎだよ。

 そんなに楽しくなっちゃったの?

 もこもこもこもこ。



「山田、どうした?」


 あ……、先生が気づいちゃった。



「なんでもありません!」

「……そうか? ‌まぁいいか」


 誤魔化しかたも野球部らしいと言いますか、大きい声でハッキリとそう言われたら先生も諦めますよね。

 とっても清々しい。


 また、戻って。


 トッピングがあるんだね。

 もうトレーに入れてある。

 切り替えも早いよ、山田君。


 練ったお菓子をすくって。

 トッピングに付けて、口へ、あむっ。


 爽やかすぎる笑顔。

 美味しかったんだね。


「……ははっ」


 ……やばい声が漏れちゃった。

 面白くってつい……。


「どうした、川畑かわはた?」



 私も、山田君を見習って……。


「なんでもありません!」

「……なんか変だな、そこの二人? ‌まぁいいか」


 ふぅ。セーフ。

 山田君のせいだよ、まったく。



 そう思って山田君を見ると、こっちに練ったお菓子を差し出してくれてた。

 デラックスタイプは、スプーンも何個か付いてるらしい。

 新しいスプーンでこちらへくれてる。


 これ食べろって?

 無言で得体の知れない物を差し出して……。

 何かの部族みたいになってるよ、山田君……。


 食べますけど……。


 トッピングもつけて食べてみた。

 それと同時に山田君の爽やかな笑顔も、もらった。


 うん。

 こういう味も好きだなって思った。


 昼下がり、退屈な授業の合間に楽しいものを見せてもらえた気がした。

 楽しかったです、山田君。


 私もその知育菓子、好きだよ。

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