自主練

 梅雨が戻ってきたみたいに雨が降ってる。

 地方によっては、大雨が降ってるみたい。

 今日の朝、ニュースで言ってた。

 私の住む地域では比較的弱い雨。


 雨が降ってる。

 それだけなんだけど、なんだか落ち着いた気分になる。


 今まで暑かったのが異常なんだよね。

 一気に夏が来たみたいだったけど、本当はまだ梅雨だもん。

 世間人はみんな焦りすぎだよ。

 夏休みだってまだなのにさ。


 焦ってもいいことなんてない。

 ゆっくりでいいんだよ。

 少しづつ進んでいけば。



 窓からボーッと外を眺めていた。


 雨は弱くて、雨音なんて聞こえない。

 何も聞こえないからこそなのか、眺めてるだけで心が落ち着く。


 いつもと何も変わらないはずなのに、そこにあるのはいつもと違う風景。

 やっぱり雨って不思議だなぁ……。




あずさ、ボーッとしてどうしたの?」


 声をした方を見ると、スラーっと長い足が見えた。

 きちんと履いてるはずのスカートなのに、丈が短く見えるくらいに足が長い。

 その細い足が似合うようなスリムな体型をしていて、そして顔まで可愛い。


 私の顔を覗き込むのは響子だった。

 チャームポイントのポニーテールが揺れている。



「雨降ってきちゃってね。残念だけど今日は部活休みだってさ」


 響子も私も陸上部。

 ぬかるんだグラウンドでは、流石に練習は出来ない。

 こういう日は休み。



 響子は陸上部のエースなんだ。

 きっとすぐに先輩達から情報が回ってくるのかな?


 毎日一緒に練習してるけど、実力は全然違う。

 いくら私が頑張ってるの思っても、響子には全然追いつけない。

 生まれ持った素質があるんだよなー。



「こんな日は、練習なんてできないもんね。しょうがないから帰りがけにお茶でもしてく?」


 私がそう聞くと、響子は首を横に振った。

「私は自主練してくよ! ‌梓もやってく?」


 自主練? ‌響子そんなことしてるんだ。

 雨を眺めててボーッした頭では、思考が追いつかなかった。

 ボーッとして、響子のポニーテールが揺れるのを眺めていた。


「……あれ? ‌私と2人で練習なんて嫌だったら、帰っちゃっていいよ。ごめん……」

「……そういう訳じゃなくって、自主練してるんだ?」



「うん! ‌朝とか早く来て練習してるし、雨の日もしてるよ! ‌こういう日は自主練日和だよ!」


 響子がそんなに自主練してるなんて初めて知った。

 私は、その間ボーッとしてるだけだったのに……。


「おーい、梓ー? ‌なんかボーッとし過ぎだよ?」

「ごめん……またボーってしてた。響子って凄いなって思って……」


 ただ、体格に恵まれてるだけって思っちゃってた。

 私が知らないところで、いっぱい頑張ってるんだ。



「梓、なかなか記録伸びないって落ち込んでたからさ、一緒に練習したいなーって思って!」

 優しいし、友達想いだし。



「私が色々教えてあげるよ!」

 笑顔が可愛いし。



「梓は、私のライバルだからさ! ‌一緒に頑張ろう?」

 向上心もある。

 私も、そんなふうになりたいな……。

 響子に追いつきたい!



「梓も自主練する?」

 再度響子が聞いてきた。


「もちろんするよ! ‌私も記録伸ばしたい! ‌響子に追いつきたい!」

 そうやって答えると、響子は飛びっきりの笑顔を私に向けてきた。


「じゃあ、一緒に頑張ろう!」



 この笑顔には、追いつけそうに無いなって思った。けど、私も追いつけるように頑張りたい!


「響子は、自主練好きなんだね!」

「そうだよー? ‌自主練すっごい好きだよ! ‌成長してるって感じれるもんね!」

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