出店

「なにこれー! めっちゃ混んでるじゃん!」

 驚きのあまり、お母さんに向かって大きい声で言ってしまった。


 駅まで行くバス。

 いつもは空いているバスが、今日に限ってすごく混んでいた。


 今日は、駅前の商店街で開かれる夏祭りの日だけど……。

 そこに行くまでのバスからして混んでるなんて、想定外だった。


 会場はどれだけ混んでいるんだろう……。

 そう思いながら、混んでいるバスに乗り込んだ。


「暑いね……」

 私がそう言うと、お母さんはハンディ扇風機を回してくれた。

 優しいな、お母さん。とても気が利く……。



 満員のバスに揺られて駅まで行くのだが、駅までの道も道路も混んでいて。

 バスの窓から外を見ると、歩道を浴衣を着た女の子たちが大勢で列を作って歩いていたりする。


 やっぱり、会場は相当混んでるはずだなぁ……。

 気合入れなきゃだね!



 ◇



 バスを降りて、商店街へと向かう。

 いつもは数人いる程度の商店街なのだが予想した通り、人で溢れかえっていた。

 道路はぎゅうぎゅう詰め。


「なんだこれ……」



 商店街は、そんなに道幅は広くない。

 そんな道の端に出店の屋台があるのだ。

 出店の分道が狭くなっていて、それで出店に並ぶ人もいるのでさらに道が狭くなっている。

 そんな状況で、そもそもいつもよりも通行人が多いのだから、もう歩くことさえできない状態だった。

 商店街に入る前の道でも、そんな状況であった。



「人詰まりすぎてるね……」


 商店街へと入るまでの道路に、警察まで出動して交通整備してる。

 事故があってからじゃ遅いもんね。

 これは、商店街に入ったらもっと混んでるよね……。


「せっかく来たけど、出店見るのやめておく?」


 お母さんが私にそう聞いてくる。

 4年ぶりのお祭り開催。

 私がまだ幼稚園の頃に一回来た記憶はあるけど、ほとんど初めて来たようなもの。

 出店で遊ぶっていうのがどうしてもしたい……。


「……けど、お母さん、私出店で遊びたいよ……」


 そういうと、お母さんは優しく微笑んでくれた。


「七海が遊びたいっていうなら行こう! 待っていれば進めるし、順番に並んでいればちゃんと遊べるからね!」


 いつでも前向きなお母さん。私に対してとても気を使ってくれる。

 そんなお母さんが一緒に行ってくれるなら、とても心強い!


「ありがとう、お母さん! 一緒に行こう!」


 そう言って、お母さんの手を握って商店街へと入っていく。

 絶対にはぐれないようにギュって強く握る。


 お母さんの手って、優しい触り心地。

 ふにふにしてる。


 商店街に入ると、さらに人が詰まってて歩くスピードはとてもゆっくり。

 全然進まないけど、お母さんと一緒なら大丈夫。


 徐々にだけど前に進んでる。

 お店は逃げないもんね。


「今日は、七海の出店デビューの日だね! お母さんいっぱい写真撮っておくからね!」


 お母さんは、いつでも明るくて好き。

 けど、その気持ちは心の中に留めておく。いつか絶対に恩返しするからね。

 お母さんに付いてきてもらってるからには、私は全力で楽しむのです。


「お母さん、私出店って大好きだよ! 全力で遊ぶから見ててねっ!」

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