ハンディ扇風機

 夏の教室はとても暑い。

 教室の前の方には扇風機があって、少しだけ涼しい。

 逆に後ろの方は、暑い。


 廊下側であれば風も通ってぎりぎり涼しいけど、私は窓側の一番後ろ。

 いつもはみんな羨む席なんだけど、夏はみんなが嫌がる席。


 席替えの時、くじ引きでこの席を引き当てた時は当たりだーって思ったんだよ。

 隣の席も山田君だし、これは大当たりって。

 けど、結果はこんな感じです。

 とっても暑い。

 汗かいてたら、山田君に嫌がられそうで。

 大外れだよ……。


 隣をちらっと見ると、山田君は真面目に授業を受けてる。

 横顔もカッコいいなー……。



 ……ダメだ。暑い。

 梅雨空はどこへ行っちゃったんだよー。

 雲一つない空。

 夏です……。



 こうなれば最終手段。

 先生から隠れた所でハンディー扇風機をつける。



 ぶぅーーーーん。



 はぁーー。

 生き返るーー。

 これがなかったら死んじゃってたかもだよ。


 ふぅー。

 そろそろバレちゃうから消そうかな……。


 電源を消そうかと思ったちょうどその時、先生と目が合ってしまった。



 ぶぅーーーーん。


 ……カチッ。


 ぅぅーー……。



 先生に見られながら、扇風機を止めてしまった。

 汗は止まったはずなのに、冷や汗が垂れてきた。


 この学校では、ハンディ扇風機は禁止されてる。

 授業中にブンブン音が鳴っては集中できないって理由で。


 一番後ろの席でもバレたよね……。

 扇風機本体は見えてなくても音でバレちゃうね……。

 しょうがない。

 諦めよう。


 これお気に入りだったんだけどな……。



「ぶぅーーーーん」


 ん?

 扇風機の音?

 ちゃんと消したはずなのにな……。


 薄目にして、ちらっと机の下にある扇風機を見たけどやっぱり電源は切れて止まってた。

 あれ?



「ぶぅーーーーん」


 音がするのは隣の席。

 山田君の方だ。


 山田君のハンディ扇風機……。

 じゃなくて、口で扇風機っぽい音を鳴らしてる。



「おい山田、それうるさいぞ!」

「はい、すいません。後ろの席って暑いもんで、気持ちだけでも涼しくなろうかと……」



「気持は分かるが、もう少しだけ説明したらにしてくれ。そしたら扇風機使って良いぞ」

「ありがとうございまーす!」


 そう言うと、山田君はコッチを向いて、サムズアップしてくれた。

「……その席、クラスで一番暑いもんな。もう少し頑張れな!」


 ……山田君、私のことを思って扇風機の真似とか。先生と交渉までしてくれて。

 ……カッコいいな。


 山田君、横顔は涼しげだけど、こめかみに汗が流れるのが見えた。



「よし、後ろの席、扇風機使っていいぞー!」


 先生の許可が下りると、皆一斉にハンディ扇風機をつけ始めた。

 私も扇風機を付けた。

 付けた扇風機は山田君の方を向けて。


「あぁ、涼しいー……。って、木村さん、何で扇風機コッチ向けてるの。自分の方に向けなよ」

「私からのお礼です。山田君暑そうでしたし」


 山田君は困った顔をしながら、少し微笑んで自分のハンディ扇風機を私に向けてくれた。


「これで、おあいこでしょ」


 私の風が山田君に。山田君の風が私に。

 風の送りあいをしてる。


 涼しむはずが、なんだか逆に顔が熱くなってきてる気がするな……。


「困ったときは、また今の作戦するから言ってね!」



「ぶぅーーーーん」



 ふふふ。山田君のハンディ扇風機の真似上手いなー。

 私のお気に入りのハンディ扇風機、今順位が変わったかもな……。


 私、ハンディ扇風機が好きです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る