笹飾り

「笹の葉さーらさらー♪」


 商店街のスピーカーから幼稚園児が歌う『たなばたさま』が聞こえてくる。

 可愛い声で一生懸命歌ってて、とっても可愛い。


 今日は七夕祭りをやっているんだ。

『日本三大七夕祭り』って言われてて、すっごく人が集まってる。


 いつもの商店街が人で溢れかえって。

 商店街に七夕飾りがあるからって、みんなゆっくり歩いたり、立ち止まって写真を撮ったりしてる。

 大きい笹に吊り下げられた笹飾りが風に揺れて、さらさらって言葉が良く似合っている。

 みんなこれを見に来るんだね。


「すごーい! これいいね!」

「色合いがいいね!」


 浴衣を着たカップルもいるけど、私と修平しゅうへい君は学校の制服姿で。

 私たちも一緒に写真を撮ってみる。

 ふふ。


「修平君、写真送るね!」


 歩きながらスマホをいじって、本当はいけないんだけどね。

 今撮った写真、ちゃんと撮れてるかな?

 どれどれ。


 二人とも笑顔。

 後ろの飾りもばっちり入ってる。

 よしよし。これを送信!


 いつもみたいに修平君にメールを送ってみても、全然通信される様子がなかった。

 もしかして、あれかな。

 人が多い時って、電波が入らないんだよね。

 前の花火大会の時もそうだったんだよ。

 はぁ……。

 また後で送ろうかな。


「修平君、また後で送るね」


 顔を上げると、修平君の姿は無かった。

 あれ、どこ行っちゃったんだろう……。


 見渡そうとしたが、人込みで全然周りが見えなかった。


 これはまずい。

 はぐれちゃったってやつだ……。


 さっき、修平君とメイン会場に行こうって話してたから、そっちにいるんだきっと。

 とりあえず人の流れに乗って向かおう。



 ◇



 メイン会場に着いたが、そこも人が多くて見つからなかった。

 せっかくのデートだったのに……。


 そう思って、はぐれてしまったところに戻ったり、メイン会場に戻ったりと何回も往復するうちに日が沈んできた。



 ずっと通信はできないし……。


 しょうがないから、また来年にでも来ようかな……。

 けど、それまで私たち付き合ってるのかな……。


 そんなことを考えながらメイン会場を後にして、笹飾りがある道を駅に向かって歩いていく。

 夜には笹飾りがライトアップされて、昼よりも綺麗に見えた。


 笹飾り、天の川みたいだな。

 とっても綺麗。


 これを修平君と見たかったな……。

 けど、もう帰っちゃってるよな……。


 昼よりも人通りが減ったからか、メールの通知音がした。

 今更通信回復したのか……。

 もう遅いよ……。



 修平君からのメール。



涼子りょうこ、やっと見つけた」



 送信時刻は、ちょうど今。

 笹飾りの向こう側に修平君が見えた。


「良かった会えて、もう今日は会えないかなって思ったよ」


 そう言うと、私の手を握ってくれた。

 はぐれちゃったことを怒るそぶりも無く、修平君は私に微笑んでくれた。



 それは、どこか織姫と彦星みたいで。

 キラキラ綺麗な笹飾りの中、私と修平君は巡り合えたのでした。



 天の川みたいにキラキラと光る綺麗な笹飾り。

 大人になっても、ずっと心に残ってると思う。


 私の好きな人と見た、初めての七夕祭り。



「この笹飾りって、キラキラ光ってて。……大好きだよ」

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