サラダ記念日
「この味が良いねって言ったから。そんな記念日があるの知ってる?」
ワイヤレスイヤホンをしてる
勉強するっていうと、いっつも自分の世界に入っちゃって。
イヤホンしちゃってる。
図書室は静かにっていうけどさ。
カップルなんだよ? 私たち。
少しくらい喋りながら勉強したっていいじゃん。
本当に大地君聞こえてないのかな?
「大地君、そのイヤホン良いね! カッコいいよ!」
大地君はこっちを見ない。
黙々とノートに計算式を書いている。
……むー。
「私がイヤホンを褒めたから、今日はイヤホン記念日だね」
「……」
「けど、大地君と一緒にいれたら毎日が記念日みたいなものだよ」
「……」
「私今すごく可愛い笑顔して、言ってるんだけどなー?」
「……」
……やっぱり聞いてない。
まぁいいか。
大地君の勉強の邪魔をしたいわけじゃないし。
我ながら、私は飼い主の仕事の邪魔をする猫ちゃんみたいな。
ふふふ。
「にゃー」
手で柔らかいグーを作って、猫が顔を洗うように自分の顔を撫でてみる。
大地君は勉強ノートから目を離さなかった。
うーん。
これでも通じないかー。
「私も勉強すればいいかもだけど、お話しながら勉強したいなー」
ちらっと大地君を見ても、やっぱり顔を上げずに勉強したまま。
しょうがない、私も勉強しよう。
◇
よし頑張った!
「ねぇねぇ、すごいでしょ。私も集中してできたよー!」
大地くんの方を見ても、まだノートにかじりついてる。
まだ集中モードか……。
「大地君ってさ、なかなか褒めてくれないよね。たまに褒めてくれてもいいんだよ?」
そっけない顔して。
何も感じてないみたい。
私の言葉なんて、届かないんだろうなー。
「一年に一回くらいはお願い聞いてくれてもいいのになー」
「……」
「もしもーし。彦星さーん」
あ、今、ぴくって耳が動いた。
聞こえてるのかな?
今がチャンス?
「ねえねえ。勉強と私とどっちが大事?」
なんか重い女の子みたいに聞いちゃったかな……?
これは聞こえないふりかー。
「今日は、サラダ記念日なんだよ。私も何か褒めて」
「……」
もうっ! 聞いてくれないなら、最終手段!
「……大地君、好きだよ」
ふふ……。
聞こえてるみたい。
耳赤くなってきてる。
「今から、私が面白い顔をしますー。今だけしか見れないからね。チャンスだよー」
ばぁー。
大地君が顔を上げてこっちを見た。
見るとは思わなかったから、ちょっと恥ずかしいな……。
けど、やっとこっち見てくれた。
大地君は、赤くしたままの耳からイヤホンを外した。
「……一緒にいて楽しいところ、めげないところ、可愛いところ……」
大地君は単語だけ並べて、またイヤホンを付けちゃった。
うーん。
今の言葉はなんだろ……?
大地君はノートに何か書いた後にそのページをちぎって私にくれた。
『お前の良いところ言った。サラダ記念日おめでとう』って書いてある。
「私の好きなところ言ってくれてたの? ねぇねぇ、もう一回言ってよー」
また黙ったままになっちゃった。
大地君のそういう真面目なところ、私は好きだったりするんだ。
それは、心の中にとどめておこうっと。
良いところを言ってもらえた。
これも記念日だね。
私、サラダ記念日って大好き。
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