お酒を注ぐ

 私には、年の離れた姉がいる。

 私が17歳。姉は29歳。

 ちょうど一回り違う。


 優しい姉なら良かったけど、そんなことは無くって。

 背は私よりも小さいし、そんなに美人じゃない。……まぁ、ちょっと可愛いけども。



 一人暮らしをしないで、実家にいるのだ。

 それだけならいいけど。

 妹の私に毎日お酌させるの。


 私が小さいころからやらされてて。

 小学生くらいの時は、なんにも気にしないでいた。

 お姉ちゃんのコップに麦茶を入れる感覚で。

 どーぞーって。


 けどそれが続いて。

 私も高校二年生だよ。

 そんな妹にお酌をさせて。

 まったく。


 今日も姉のお酌当番。


 缶ビールを開けて上げて、コップにビールを注ぐ。

 缶のまま飲めばいいじゃんって思うけど。

 キンキンに冷えたグラスで飲むのが美味しいんだって。


 ビールと泡は、八対二くらいで注ぐのが好きらしい。


 最初はグラスを傾けて、ゆっくりと注ぐ。

 グラス半分くらいにビールを注げたら、段々とコップを縦に戻して。

 ビール缶をコップから放していく。


 ココが泡を作る作業。

 なんかビールの注ぎ方だけうまくなっちゃったんだよね。

 今日も完璧に注げた。



「どうぞ、お姉ちゃんお召し上がりください」


 姉はとっても嬉しそうな顔をする。


「ありがとうがとう! ‌完璧だよ楓香ふうか


 そう言われると、やっぱり嬉しいですけども。

 今日こそはきっぱりと言おう!


「お姉ちゃん、そろそろ妹離れしてください!」


 そう言うと姉は大げさに驚いた。


「なんで? ‌お姉ちゃんが嫌いになったの?」

「……いや、そういうわけじゃないけど」


 うーん。埒が明かないな。


 お父さんに言ってどうにかしてもらおう。

 お父さんもビールを注いであげれば上機嫌になるからね。


 お父さん用のコップを用意して、ビールを注ぐ。


「お父さーん。お姉ちゃんに妹離れしてって言ってー」

「まぁまぁ、楓香。お姉ちゃん嫌いじゃないだろ?」


 好きといえば好きだけど……。


 そういうのじゃないんだよ。

 お父さんもダメだ。

 お母さんに相談しよう。


 お母さんもビールが好きだから、ビール注いであげれば上機嫌。

 お母さん用のコップを用意して、ビールを注ぐ。


「お母さん、どうにかしてー」

「楓香、ビール注ぐの上手でいいわよ。社会に出て真っ先に役に立つからね!」


 うーん。

 どうにもならないな、こりゃ。


 そう思ってると、姉が私のコップにジュースを注いでくれていた。

 段々と溜まっていく液体。

 コップに溜まっていくジュースは綺麗だなって思った。


「誰かに注いでもらうって嬉しいでしょ?私の事を思ってる人がいあるんだなーて思えるの」


 姉は私に向かって優しく微笑んでくれた。


「お姉ちゃんは楓香の事が大好きだからね! ‌二十歳になったら一緒に飲もう?」

「……うん」


 そう言うとお姉ちゃんは嬉しそうに笑ってた。



 仕事で疲れてるお姉ちゃんに、優しくしてあげても良いのかもしれない。

 そう思えばお酒を注ぐっていうのも、良いかな。


 私の行動が幸せな気分にさせてるって思うと、意外とお酒注ぐのも好きかもしれない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る