辛い物
灼熱の太陽が降り注ぐ、お昼。
真夏日を通り越して、『猛暑日』なんて名前がついている。
そんな暑さが気にならないくらい、私自身が熱い。
これは、早く店の中に入りたい……。
炎天下の中、私は一人でラーメン屋に並んでいた。
とある約束を果たすために。
やっと呼ばれたので中へと入ってきた。
中に案内されるまでに汗をかき切ったようなものだ。
これで汗はもう出ないでしょ。
そう思って席について、頼んだのは『激辛ラーメン10丁目』。
周りのお客さんがぎょっとして私を見ていたよ。
炎天下の中を並んでもう汗は出ないと思っていたのに、頬をつうーっと汗が流れていった。
これが冷や汗ってやつだね。
まだ汗って出るんだね。
けど涼しい顔をキープ。
私は、クールなのです。
注文してすぐにやってきた激辛ラーメン。
これ、とっても、赤いです。
赤を通り越して、黒いです。
太陽の勉強した時に覚えたの。
太陽って、黒点っていう温度が高い部分があるんだよ。
このラーメンは、ほとんど全部が黒点です。
見てるだけで熱いです。
ここでたじろいではダメ、私。
早速、一口食べる。
……辛いです。
そういう食べ物だからね。
マジですか。
「お嬢さん、水ならあるよ。無理しないでね」
何でこんな約束しちゃったかな。
私がテストで負けたら食べてやるーなんて。
律儀に守っている私も私だけど。
前は、直美が負けたから食べたって言ってたけど。
これはつらい。
そりゃあ勉強に熱も入りますよね。
ひーひー言いながら食べていると、ケンティーが隣に来た。
「お、久しぶり。部活内からなかなか合わなかったよね。元気?」
汗だらだらはマズい。
涼しい顔しよう。
汗を拭いて。
「私? 元気元気!」
「え、それ10倍の辛さじゃない? 一人で店に来て一人でそれ食ってるんだ?」
……やばい、これドン引きされてるんじゃない。
あーー。私終わった。
「尊敬する。マジ凄いな!」
……あれ?
「俺も一緒のやつ挑戦しようかな」
「あ、えっと、これは……」
「いいね。この赤いの。夏はこれだよね!食欲そそる!」
……ケンティー。ごめんー。
これ罰ゲームなの……。
今更言えない……。
「辛いものってさ、発汗するっていう感覚が好きで。胃の中もごーごー熱くなるんだよね」
辛い物談議が始まった。
ケンティー、マジですか。
辛い物が好きだったんだ。そんな甘いフェイスして。
「これ食べ終わったら、アイス貰えるんだぜ。一緒に食べ切ろうな!」
そういってくれると、とても心強かったりする。
「任せて!」
ちょっと引いちゃってたけど、私も辛い物じたいは好きだもん!
ずるずる。
「はぁーーーー。辛い」
アツアツの口の中。
それがまた辛さを増長させる。
「あ、先生」
「おー! 二人共それ食ってるのか。いいな私も頼もう」
何だろうこの異空間。
私は、なんて罰ゲームを受けてしまったのか。
「
「な!」
先生とケンティ―が両隣で励ましてくる。
「……はい。食べ切りましょう」
「もし、食べ切ったら、綾瀬の追試優しくしてもいいぞ!」
この時、多分私の目が生き返った。
「……先生。その話乗りました!」
「俺もなんかサービスしようか! 食べ切ったらお願い一個聞いてやってもいいよ!」
この時、私の目は水を得た魚になっていたでしょう。
「ケンティー、絶対だからね!」
店で一番辛いラーメンを食べてる客が三人。
女子高生一人、男子が一人、先生が一人。
店員さんも、楽しそうにこっちを見ていた。
……絶対私、辛い物好きとして認識されたんだろうな。
私、辛い物好きです!
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