7月

ハンドメイド

 七月のある日。

 夏空が広がる中。

 乗りたての車の中はとても暑かった。


 エンジンをかけて冷房をガンガン回した後、母は言うのであった。


「今日はこちらへ行きますよ!」


 父もそうだが、母もその時の気分で行動するのがうちの家族だったりする。


 母は私にスマホの画面を見せてきた。

 そこには、可愛いクマさんやウサギさんのイラストが描いてあった。

 動物たちが指し示す真ん中には、『Hand Made Marche』という文字があった。


「ハンドメイド? ‌マルシェ?」

 その単語を見るのは初めてで、母に尋ねた。


 私の質問に母は目を光らせて答えてくれる。

「手作り雑貨やアクセサリーのことを『ハンドメイド』っていうの。それのマルシェ」

「……マルシェ?」


「そうマルシェ!」

 母は、いつものように父に向って目で合図をする。

 母の分からないことは、父が答えてくれるのだ。


「マルシェっていうのはね、フランス語で市場っていう意味なんだよ。手作り雑貨の市場っていうことだね」


 父は何でも知っているな。

 手作り雑貨か、どんなものがあるんだろう。

 いきなり行くことになったけど、楽しみだな。



 ◇



 海の見えるところが会場になっている。

 入場料を払い会場の中に入ると、とっても広い市場があった。

 会場の端の壁から、端の壁まで何メートルあるんだろうってくらい。


 分けられた区画にぎっしりと机が並べられて、それぞれが品物を出している。

 そんな光景に思わず声が漏れてしまった。


「すごーい……」


 母は満足そうな顔で答えてくれた。

「すごいでしょ。色んなものがあるから見てみよう!」


 端から全部回るだけでも一苦労な大きさだ……。

 一日で回り切れるのかな……?


 とりあえず着の身着のまま回り始める。


 まずはアクセサリーショップ。

 鈴蘭の花のようなチャームが付いているイヤーカフが売っていた。

 キラキラする石も一緒にくっついていてとっても可愛い。


 母は一通りざっと見ると、先へと進んでしまう。

 いっぱいお店があるけれども、お母さん早いなぁ……。

 もうどんどん先に行っちゃってるよ……。




 次のお店はポシェットを売っていた。

 ふわふわした生地で、市販品ではなかなか見ないボリューム感。

 金魚の形をしたものもある。

 可愛い。


 商品に見とれる私に、お店のお姉さんは笑って話しかけてくれた。


「これ可愛いでしょ? お姉さんが素材を決めて作ったんだよ?」


 当たり前だけど、ハンドメイドだから自分で作っているんだよね。

 それも自分の好きなように自由に作っている。


「こっちも可愛いでしょ? さっきのをアレンジして作っていてね」


 これも当たり前だけど、ここにあるお店の商品は全部お姉さんが作っている。

 そう考えるととってもすごい。

 テイストが違うけど、いっぱいお姉さんが思う『可愛い』が並べられている。



「こっちの小さいのは、私の子供が作っているんだ。丁度あなたくらいの歳の子供だよ」


 私くらいの歳でも作れるんだ。

 私も作ってみたいな……。



 お姉さんは微笑みながら、私に聞いてきた。

「午後から、体験教室もやっているから来てみますか?」


 そんなお姉さんに、即返事をしてしまった。

「はい!」


 お母さんに聞かずに決めちゃった……。

 けど、そのくらい私の気持ちが動いたの。


 ハンドメイドって、自分の好きが作れるんだよ。

 私、ハンドメイドが好きになった。

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