足湯

 とある温泉郷へと行くことになった。


 今年の梅雨の梅雨の晴れ間は長いって。

 そんなニュースを見て父が思い付きで車を走らせてきた。


 終始私は携帯をいじって。

 私ももう家族で旅行とか行く年じゃないんですけどって思う。


 けど、音楽にノリノリのお父さんとお母さんはとっても楽しそう。

 あと、弟は特に楽しそう。


 ……まぁいいか。



 窓から見える景色は、梅雨空なんか無くて。

 確かに晴れ一色。

 天気予報って当たるんだなー……。


 車の中も、なんだか晴れ一色。

 太陽が3つもある。

 さすがに暑苦しいよ。


 ……けどまぁ。

 せっかく来たなら楽しむか。

 そう思って私はスマホの画面を切った。



 隣に乗ってる弟は、スマホを置く私の姿を見てノリノリを一回止めて話しかけてきた。


「姉ちゃん、いえーい?」

「うん。今からいえーいだよ!」



 ◇



 なんだかんだノリノリでドライブを楽しんでたら、旅館に到着した。


 なんだか、煙がもくもくと立ち上って、見てるだけで暑い。


「……お父さん、夏に温泉ってどうなのよ」

「それもそれで、良いもんだろ?」


 いっつも適当に行く場所決めちゃって……。



 弟とお母さんは、楽しそうにお話してる。

「ねえねえ、温泉ってなぁに?」

「広いお風呂のことだよ!」


 わあーーって、弟の顔が明るくなった。

 純粋で可愛いな。


 そんな弟に、私も補足して伝えてあげる。

「そうそう、広くててね地下からお湯が沸きだしてくるんだ」


「すっげーーー!」


 ははっ。

 弟は単純だな。

 誰に似たんだか。

 可愛いな。


 お母さんもなにか雑学を披露しようと、補足してきた。

「温泉のお湯は飲んでも体に良かったりするのよ?」


 ちょっと違う気がして、お母さんを指摘した。

「嘘つかないでよ、お母さん。私化学の時間に勉強したよ? ‌温泉って『硫黄』なんでしょ。あまり体に良くないよ」



 そう言うとお母さんは言い返せなくなって、お父さんに「なんか言ってやれ」って目で指図をしていた。


 お父さんもやれやれって感じで、私を諭してくる。


「温泉はね、みんなで入ったら気持ちいいんだぞ」


 お父さんも湯の成分のことは分からないらしい……。

 いつも思うけど、誤魔化し切れてないんだよなー……。

 ……まぁ楽しいならいいか。


 結局私も単純かもしれない。



 傍から見たら家族団欒。

 ロビーで待っていると、予想外にも草薙先輩がいた。

 見間違いかと思って二度見してしまった。


 草津先輩もこちらに気づいて近づいてきた。


「おー、はるじゃん! ‌こんなところで会うなんて偶然!」


 草津先輩は既に宿泊してたのか、チェックインが早かったのか、浴衣姿であった。


 身長が高いって、何かとカッコいいな。

 何を着ても様になる。


「ここの温泉入った?」

「いえ、まだです」


「足湯あったから、一回行ってみるといいよ!」


 草薙君の言葉に後ろからお父さんとお母さんがちゃちゃを入れてきた。

「案内してもらって行ってきな?」

「荷物なら気にしなくていいから」



「いいよ。行こうか?」

 草薙君は笑って歩き出した。



 お父さん、お母さん。

 ……グッジョブです。



 走って草薙君について行く。


「わたし、足湯好きなんだー!」

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