開かない踏切
塾に行くときに通る道。
そこに開かずの踏切がある。
本当に全然開かない。
開いても、数秒経つとすぐに音が鳴って締まり始めるのだ。
上りと下り、合わせて6つの電車が通る線路。
なんだか電車に引っ張りだこみたいな踏切。
人気があるってことだよね。
羨ましいよ。
どこかのアイドルの握手会みたいだなーって思う。
握手できるって、「どうぞ」って言われてもすぐに剥がされてしまう。
すぐに「時間ですー」ってすぐ言われちゃうんだよね。
全然、お話もできない。
私、お話苦手だらかいつも見つめてるだけで時間切れしちゃう。
「
いきなり声をかけられた
隣に海斗君のいるのに気が付いた。
「……ど、どうも」
海斗君はアイドル的な存在。
クラスの女子にすごい人気で。
とても癒し系。
アイドルグループで言うと、可愛いキャラ担当って感じの男の子。
優しくておっとりしてて、けど運動神経もあって。
身長は低いけど、バスケ部のエースなんだよね。
話し方も優しかったり気遣いができたりで。それで女子人気もある。
「最近、調子どうですか?」
こんな私にも優しく話しかけてくれる優しさもある。
えっと、何話そう……。
私会話苦手だし。
話広げられないよ……。
「……ぼ、ぼちぼちです」
ちょっと伏し目がちに答える。
……0点の回答だな。
私とっても不愛想だよ今。
「ここの踏切って長いよね」
「そうですね」
海斗君が嫌いなわけじゃなくて
私に会話センスが無いのです。
ごめんなさい。
とりあえずタイミングだけ間違わないようにして、相槌を打つ。
海斗君の方をちらっと見ると、海斗君はすごくリラックスして線路を眺めていた。
「一定のリズムの音って和むよね」
「そうですね」
私の返事に、海斗君は笑ってる。
「意味は無くて良いと思うんだよ。けど片方の呼びかけに答えるようにカンってなったら、カンって鳴り返して」
カン、カン、カン、カン。
踏切の音を良いっていう人を初めて見た。
そんなことを思う人もいるのか……。
ずっと聞いてると意外と良いのかも……?
「そう思わない?」
「そうですね」
本当、不愛想だな、私。
どう返せばいいんだろう。
これって会話成り立ってるのかな?
海斗君はさっきよりも嬉しそうな笑顔になっていた。
「会話って変に考えて返されるよりも、素直な気持ちをもらう方が嬉しいと思うんだ」
「そうですね」
こんな不愛想な私の答えに、海斗君はとても楽しそう。
「わかる?」
「はい」
「踏切って好き?」
「はい」
「踏切、開いて欲しくないなぁ」
「はい」
何答えてるんだろ私……。
ついついつられて「はい」って。
けど、海斗君との会話が楽しいのは本当で。
会話と呼べるのかわからないけど、海斗君の話もっと聞きたいなって……。
私は、頬が熱くなるのを感じた。
海斗君の頬も少し赤くなってる。
勢いよく電車が通り過ぎていく。
電車が通る間は会話はお休み。
こんな中じゃ何を言っても聞こえないだろうし。
そもそも私は話しているのかすら怪しかったし……。
海斗君の方を見ると、海斗君もこちらを見ていた。
喋らずに笑顔を向けてくる。
……私も答えなきゃ。
笑顔で返す。
なんだろう……。恥ずかしい……。
けど、なんか良い感じ……。
ずっと見ていたいような優しい笑顔。
握手会の時、私は会話もしないでずっと見つめてて。
海斗君がアイドルに見えた。
電車が通り過ぎた。
まだ踏切は開かない。
「まだお話できるね」
「そうですね」
「千秋さんって聞き上手っていうか。とても話しやすいよ」
海斗君は私に、子供のような笑顔を向けてくれる。
……踏切、このままずっと開かなければいいな。
開かない踏切。
ありがとう。
好きです。
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