勉強

 前から2番目の席。

 目が悪いからって、前の方にしてもらった席。

 この席って、授業に集中できるから良い。


 みんなはあまりこのまなくって、「どうぞどうぞー」って感じですぐ決まったんだよね。

 この席って先生からよく見えるから、あてられやすかったりする。


 それが勉強のために役立ってるんだけどね。

 私は、この席が好きなんだよね。


 他の子達は、後ろの方でコソコソスマホゲームしてたりする。

 教科書を壁代わりにして。

 スマホ操作にタッチペン使ったりして。

 そうしたら、なかなかバレないらしいんだよね。

 そんな話を前に聞いた。



 私は、授業は真面目に聞く。

 これから良い高校に入れたら、勉強が好きな子ばっかりじゃないのかなーって。

 私、勉強好きなんだけど、誰とも話合わなくて。


 数学の問題の解き方とか、こんな方法もあるんだっていうのを見つけると楽しくなっちゃう。

 そんな話を一回してみたけど、誰も共感してくれなかった。


 好きな事って、なかなか理解されないんだよね。


 ちょっとぼーっとしちゃってたら、先生が教室に呼びかけた。

「ここ、教科書間違ってるから気をつけろよ。居眠りしてるやつもいるみたいだけど、大事なところだからな!」


 淡々とした説明だった。

 前にいなかったら聞き逃しちゃったかもしれない。


 えーっと。

 なるほど、ここか。

 教科書も間違うことってあるんだ。

 人が作ってるから、そういうこともあるか。


 教科書に横線をつけて、修正した。



 ◇



 授業が終わると、眠っていた教室が起きたように騒がしくなった。

 後ろの方の席では、楽しそうに笑い声が聞こえた。

 活発に話してる人達って羨ましいなぁ……。

 私、友達いないからな……。



「誰かここ聞いてた人いる?」


 成美なるみさんが、席の周りの人達に聞いてる。

 ……さっき先生が言ってたところだ。



「そこ、テストに出るっぽいんだけど、半分寝てて聞いてなかったんだよね……」


 教えてあげたいけど、あんまり話したことないしな……。

 そんな成美さんの様子を、じっと見てしまっていた。



 成美さんもキョロキョロしてたので、目が合ってしまった気がした。

 私は慌てて目をそらした。


 わ、成美さんがこっちに近づいてくる……。

 怖いな……。


千智ちさとさん。分かったりしない?」


「あ、あの、聖徳太子がなったのは摂政せっしょうです。漢字が違ってるらしいです……」



 おそるおそる教科書を出して、さっき修正した部分を見せた。


「なるほど、そういう事か! 千智さんって、いっつも授業真面目に聞いてて偉いよね! 助かったー!ありがとう!」


 成美さんは用事を済ませると、席へと帰っていくようだった。

 そうだよね、テストのためだったりするよね。勉強って……。

 楽しいんだけどな……。


 すると成美さんは立ち止まって、こちらを振り返った。

「勉強って楽しいよね。今まで知らなかったことがわかるようになるんだもん」


 笑顔でそう言って自席へと戻っていった。


 ……成美さんなら、勉強の話できるかも……。

 ……私も言ってみようかな。勉強好きだよって。

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