紫陽花
大きな駅の隣駅。
そこを出て少し歩いた所に、バラ園がある。
バラ園とは言いながらも、色んな花が咲いているような庭園。
都会にあるんだけど、その庭園一体が花に囲まれてるから都会であることを忘れちゃうような、そんなところ。
季節が合えば綺麗なバラがたくさん見れる。
この前、梅雨に入ったってニュースの後に「バラはまだ見頃ですよー」って言っていた。
そんなニュースを見たからか、彼がデートの提案をしてきたんだ。
「週末はバラ園に行こう」って。
私が花が好きっていうのを気にしてくれて、季節ごとに色んな花の名所に誘ってくれるんだ。
私は彼の、そういう所が好きだったりする。
◇
デート当日。
梅雨らしい空をしていた。
小雨が降ってる中でのお散歩デートっていうのも悪くないか。
雨の日って少し涼しくて、意外と好きなんだ私は。
改札を出て傘を差して待つ。
彼とは駅で待ち合わせだけどまだ来ていない。
スマホを見ると、待ち合わせ時間より少し早かった。
駅自体は大きくないし周りにお店もない。
することも無いので、待ってる間に今日行くバラ園の情報でも見ておこう。
色んなところに花を見に行くけど、今日のところは初めて。
なになに。
バラの名所だけあって、バラ関連のグッズがいっぱい売ってる。
バラの紅茶が売ってたりするんだ。
これは、ちょっと飲んでみたいな……。
あと、バラのアイスなんていうのもある。
綺麗な赤色と、花が乗っかっている。
美味しそう。
彼が遅刻したら、奢らせよう……。
バラ園のホームページを見ていくと、花の情報も載っていた。
今の季節だと、バラ以外にも紫陽花も咲いているらしい。
紫陽花も可愛いよね。
小さい花がいっぱい咲いてて。
小さい幸せがいっぱい集まってるみたい。
大きな一輪のバラよりも、紫陽花の方が実は綺麗かもしれない。
小さい幸せがいっぱいの方が、幸せに満たされてる気がする。
そんなことを考えてると彼がやってきた。
カラフルな色の服を着てる。
まるで紫陽花みたい。
そんな服を着ても、不思議と似合うんだよね。
「ごめん、待たせちゃった?」
「ううん。今来たとこ」
彼も待ち合わせ時間よりも早く着いた。
時間にも、ちゃんとしてるんだよね。
そういう所から、信頼出来る。
「あれ? ちょっと雨降ってるんだ……」
彼はそう言うとイタズラに笑って、私が差してる傘に入ってきた。
「一緒に入れて。二人で別々に傘差すと、離れちゃうからさ」
「い、いいけど……」
近づくと、彼から良い匂いがした。
この前、私が好きって言ってた香水だ。
彼はそういう細かいところまで気を使ってくれてる。
一つ一つは、すごい良いわけじゃない。
顔も中の中くらいかな?
けど、私の事を一つ一つ気にしてくれたり。
小さい『良い』が集まってるような彼。
「バラも見れるけど、紫陽花も見れるらしいよ。 俺、紫陽花って好きなんだよね。
彼のことを紫陽花みたいだなって思ってるの、伝わっちゃうかな……。
顔が赤くなってても、近いからこっちは見られてないはず……。
「……私も、紫陽花好きだよ」
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