バドミントン部

「あっついーーー!!」


 体育館の中は、熱さでムワッとしている。

 温度とか温度とかって目には見えないはずなのに、目の前の体育館の景色は「暑い」っていうのが分かる。


 ちょっとふらふらするし。

 汗かき過ぎちゃったかな。


「ごめん、ちょっと休憩する」


 そう言って、壁際に置いたペットボトルの元へ行って水分補給をする。



 体育館は二面あって、一面を私たちバレーボール部が使っている。

 もう一面をバドミントン部が使っているのだ。


 バドミントン部の男子の、シューズの擦れる音がキュッキュッと聞こえてくる。

 乾いた音のはずなのに、熱さのせいでこもった音に聞こえる。


 なんで体育館のドアも窓も開けられないかなー……。




 室内系の部活は体育館を共有して使っているのだ。

 共有しているのは、バレー部、バドミントン部、バスケ部。

 それぞれ男女の部活がある。


 他の室内系の部活もあるけど。

 卓球は卓球場で練習するし、ダンス部はステージの上で練習。

 柔道部と剣道部は武道場が別にあるからそっちにいる、



 今日の体育館は、バドミントン男子と共有で体育館を使う日。

 の日。

 


 バドミントン部と一緒の日になると、全部を締め切るんだ。

 今日みたいな暑い日だと、蒸し地獄。


「あっつい……」


 持ってきたペットボトルの中身を飲み干してしまった。

 今日1本しか持ってきてなかった。

 次の水分補給の時のために、新しいの準備しておかないとだな……。

 いったん体育館を出て買ってこよう。



 重い体育館の扉を開けると、涼しい風が体育館内に吹き込んできた。

 気持ちいい。


「おい。風入ってくるんだけど、閉めてくんない?」



 後ろから声がする。

 バドミントン部主将だ。


「……ごめんなさい」

 慌てて体育館の扉を閉める。


 ……やっぱりバドミントン部って苦手だな。


 そのまま体育館の外から、外廊下をつたって食堂のところまで向かう。

 そこに自動販売機が合って飲み物も売っている。


 スポーツドリンク。150円。


 先に100円を入れて、10円を入れようとした時に気が付いた。

 あれ、小銭足りないじゃん……。

 お札も5千円札しかない……。


 ……はぁ。せっかく来たけど、しょうがないから我慢するか。

 返却レバーを回そうとすると、声が聞こえた。



美奈みな。ほれ」


 隣から来た手が、追加で50円を入れてくれた。


「俺が3割負担で!」


 誰かと思って顔を見ると、バドミントン部の直樹なおき君だった。

 男子から奢られるなんて、しかもあのバドミントン部なんて。

 そう思って断る。


「いや、申し訳ないよ」


「いやいや、こちらの方こそ。この季節に体育館締め切りは暑いでしょ?」

 直樹君は、真剣な表情を向けてきた。


 私は、バドミントン部が大事な時期だと言うのは知っている。

 地区予選の最中で、今が追い込み時だっていうのも知ってる。

 暑いなんて、私のわがままなんだっていうのも知ってる……。



「ゴメン。けど、バド部の事嫌いにならないでね!」

 外の風と同じような、爽やかな笑顔を私に向けてくれた。



「飲み物ならいくらでもおごるからさっ! 一緒に頑張ろうぜっ!」

 そう言って、直樹君は自分の分も買うと、体育館へと小走りで帰っていった。



 さわやかな風が吹き抜けた。

 涼しいはずなのに、私の頬は何で熱いんだろう……。


 さっき水分補給したばかりなのに。

 なんで口の中が渇いてるんだろう……。



 その場で、スポーツドリンクをあけて飲んだ。


 甘い。

 恋の味って知らないけど、こんな味がするのかな……。


 ピリピリするくらい頑張ってるの、わかってるよ。

 熱くなるのもわかってるよ。


 大丈夫。

 バドミントン部、嫌いじゃないよ。



 ……いや、素直になろう。

 バドミントン部、好きだよ。

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