可愛いコックさん
中学校の授業で、職場体験というものがある。
大人になったらどんな職業に就きたいかっていうのを中学生の内から体験してみるんだって。
ファミレスの店員さんに、スーパーの店員さん。
商店街の八百屋さんとか、魚屋さんもあったり。
お花屋さんがやっぱり人気だった。
そんな中で、私が希望したのは幼稚園の先生。
弟も妹もいなくって、そういう兄弟がいる友達がすっごい羨ましかった。
たまに写真とか動画を見せてもらったりするけど、ちっちゃい子ってすっごい一生懸命遊んでて、転んじゃったら泣いたりして。
けど、すぐにけろっと笑ってて。
可愛いんだよね。
小さい子供と遊ぶのってすっごく楽しそうなの。
私、子供が好き!
だから、幼稚園の先生っていうのをやってみたかった。
◇
「今日、少しの間ですが中学校のお兄さん、お姉さんが来てくれました。皆さん挨拶しましょう」
「よろしくお願いしまーす!」
子供たちの元気な声が聞こえる。
皆期待の目をこちらに向けてくる。
何にもしていないのに、それだけで私は嬉しくなっちゃう。
私もつい笑顔にいなってしまう。
何して遊んであげようかなー?
職場体験に来ている中学生は、私一人だけじゃない。
一緒に何人か来ている。
みんな幼稚園の先生がつけているエプロンをつけて、部屋の前に並んで立っている。
挨拶が終わったら、幼稚園の男の子達は早速、男子の方に寄って行った。
ウキウキした顔を向けてくる。
「お兄ちゃん! カイジュウごっこしようー!!」
男子もそれに乗ってあげている。
「いいぞー! お兄ちゃんがカイジュウかな?」
そういうと、両手を上げて、子供たちを威嚇した。
「ガオ―――!!」
男の子達は目を輝かせて、喜びながら逃げて行った。
「あはは! カイジュウが来たぞー!!」
小さい男の子を追いかけまわして遊んでいる。
いいなぁー。
すぐに打ち解けていて。
私も遊びたいなー……。
そう思っていると、女の子がこちらに来た。
「ねぇねぇ、お姉さん。私と一緒にお絵描きしよ! 私、
ちょっと照れ臭そうにそう言うと、私のスカートを引っ張ってきた。
……めちゃくちゃ可愛い!
ついつい顔がにやけてしまう。
私は、女の子と目線が合うくらいにかがんで、正面から女の子の目を見て答えてあげた。
「よし! 彩華ちゃん。お姉さんとお絵描きして遊ぼう。何を書こうか?」
目線を合わせたことで女の子も安心したようで、明るい顔で笑って答えた。
「私ね、お絵描きの歌知ってるんだ!」
そういって、画用紙が置いてあるところまで走っていった。
画用紙のそばにあったクレヨンを取り出して、画用紙に絵を描きだした。
「見てて、見てて!」
私もゆっくり歩いて女の子のそばへ寄ると、女の子が歌いながら描き始めた。
「棒が一本あったとさー、かえるかなー?」
「……あ、それ知ってるよ!」
女の子はニコっとこちらに顔を向けると、また続きを描いていった。
「6月6日に雨ザーザー降ってきてー。あっという間に、出来上がりー!」
画用紙を頭の上に上げて、私に見せてくれた。
「どう可愛い?」
コックさんが笑っている絵。
その画用紙の下で、女の子も笑ってこちらを見てくる。
絵も可愛かったけど、それを見せてくる彩華ちゃんがすっごい可愛かった。
「可愛いコックさんでしょ! 私このコックさん好きなの!」
ニヤけようとする顔を我慢するのをやめた。
彩華ちゃんに負けないくらいの笑顔で答えた。
「私も、好きだよ。可愛いコックさん!」
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