歯医者さん

 夜ご飯を食べ終わってテレビを見ていた。


 テレビでは、大気の影響で歯が痛くなることもあると話していた。

 そしたら、右の下奥歯がちょっと痛み出した気がして。


「お母さん、私これかもしれない。ちょっと奥歯が痛いんだよね……」



 そういうと、お母さんはちょっと深刻な顔をして私の口を覗き込んできた。

葉月はづき、むし歯かもしれないよ……。こういうのは早めがいいから、明日歯医者さん行っておいで」



 歯医者さんか。

 苦手なんだよなー……。



 ◇




 駅前のビルに歯科医院がある。

 最近できたところで、綺麗って噂。

 お医者さんも女の人が多いって。

 それも美人な人が多いって。そんな評判。



 どうしても行かないといけないなら、せめて綺麗なところが良い。

 高校終わりの帰り道。

 家の最寄り駅まで帰って来たところで、家の方には向かわずにビルの方へと向かった。

 大きなビルの一階に、歯科医院はある。


 白い外壁で、外観からして綺麗であった。

 入り口の自動ドアも、曇りなく透き通ってる。

 そんなドアに、乳歯と大人の歯のキャラクターが描いてある。

 自分よりも大きい歯ブラシを持って、お互いに磨きあっているようなイラスト。


 歯のキャラクターは綺麗に輝いて、ニコッて笑っている。



 ……よし。気合入れていこう。



 自動ドアを入ると、明るい照明で内装も綺麗であった。

 待合の椅子が並べられていて子供も何人かいた。

 笑顔で親と話してる。


 怖いと思ってたけど、ちょっと思ってた雰囲気と違っていた。


 奥の方にある受付のお姉さんが、私に気づいたようで遠くから話しかけてくれた。


「こちらへどうぞ」



 案内された受付へ近づいてみると、凄く美人なお姉さんだった。

 マスクをしているので目元だけだけど、とっても美人。



「今日はどうしましたか?」

「初めてなんですけど、奥歯が痛くて……」


「そうしましたら、席でお待ちください」



 そう言われたので席へ行くと、すぐに私の名前が呼ばれた。



 奥にある治療室へと案内されると、歯科医の先生も女の人で、綺麗な人だった。



「そこに座って、口をゆすいでいてください」



 なんだろう。

 美人さんばかりだからか、少しだけ怖さが無くなってきた気もする。

 紙コップに入った水をゆっくりと口に含み、うがいをして流しに吐き出した。

 そうして、一旦深呼吸をした。



「緊張しなくても平気ですよ? ‌痛くないですから。口を開けてください」


 椅子がゆっくりと倒され始めた。

 もう覚悟を決めるしかない。

 そう思って口を開けた。



「奥歯ですよね」


 そう言って何やら器具を取りだした。


 ……出た出た。

 これでキュイーンって削るんだ。痛くても我慢しなきゃ。


 そう思っていても、なかなか音がしなかった。



「終わりましたよー」


 あれ?

 終わり?


「最近は削らないんですよ。大事になる前だったら、レーザーで悪い所だけを取り除けちゃうんです。簡単に終わるけど、歯磨きはちゃんとしましょうね」


 そう言うと、微笑みかけてくれた。


「定期検診も大事ですからね。今度の予約入れときますね」



 待合室に戻ると、子供はやっぱりみんな笑顔だった。

 ここの歯医者さんって、やっぱり凄い。


 早めに案内してくれたお母さんにもお礼を言っておこう。

 痛くなくて、美人さん多くって。

 もう歯も痛くない。


 嬉しいことが多くって。

 歯医者さんって、好きかもしれない。

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