世界史

 4時限目の授業は世界史。

 中世ヨーロッパのことを先生が説明してくれている。


 先生の説明する部分を教科書で見ると、中世のお姫様の肖像画とか、貴族の生活様式の写真が載っている。

 先生は教科書の一部分を読み上げながら、追加で教科書に載っていないような詳細な説明をしてくれている。


 一通り教科書の内容を説明し終わると、黒板に向かって何か描き始めた。

 白いチョークと、赤いチョーク、緑のチョーク。

 いろんな色を使って綺麗に絵を描いてる。

 絵を描くのが好きなのか、先生の横顔はにこやかだった。


 ……というか、夢中になりすぎているくらい。

 全く生徒の方を見ないで描いている。


 左手には、3色のチョークを持ち、都度持ち替えながら描き進めている。



 そんな先生が描く絵を、私はノートに写していく。

 私も絵を描くのは好きな方だ。


 先生と同様に何色かペンを左手に持って、ノートに書き写していく。

 黒板の絵はチラッと見るが、途中から私の妄想でドンドン描いてしまってる。


 なんだか、なろう系小説の設定資料を見てるような気分。

 頭の中は妄想でいっぱい。


 このお姫様、実は悪役令嬢だったりしないかな。

 先生が描いたよりも、もう少し目つきが鋭くしておこう。

 あと、先生の描いたヨーロッパの地図、この辺りが怪しいのよね。

 世界史で語り継がれていないだけで、ドワーフやエルフなんていたりして。

 そこで、魔法も使われてたりしないかなー……。

 ここは『エルフの里』と……。


 そんなことを考えていたら、半分夢の中にいるみたいだった。



 ――キーンコーンカーンコーン。



「はーい。それじゃあ、今日はここまでにします。みんな眠そうだったけど、今日やったところはテストにだすから。ちゃんと復習しておくように!」


 そういうと、先生は満足そうにして教室を出て行ってしまった。

 きっと絵を描くのが楽しかったのだろう。



 私も絵に夢中になりすぎて、大事なところを書き写せていなかった。

 ちゃんと書いておかないと。

 慌てて板書をノートに写し始めると、一度出て行った先生が戻ってきた。



れいさん、みんなが黒板写し終わったら、黒板消しといて」


 先生は、片手を顔の前で縦にして『お願い』ってポーズをしてきた。

 しかも、ウインク付き。


 ……歳のわりに可愛いんだよな、先生。



 私の席が廊下寄りの一番前の席だからなのか、先生からよく頼まれごとをされる。

 この席は、損な役回りなんだよなー。

 窓際の一番後ろとは対極にあって。

 一番のハズレ席。

 ここから始まるライトノベルでもあったらいいのになぁ……。



 まぁ、頼まれちゃったから、しょうがないか。

 後ろを向いて教室内を見渡すと、まだ板書を書き写している人が何人かいた。

 私も早く書き写しちゃおう。


 そう思っていると、教室のドアが開いて、明るい声が聞こえてきた。


「れーい! お弁当食べよっ!」


 同じ部活の仁美ひとみがドアの前に立っていた。

 お弁当を食べるときは、隣のクラスからやってくる。

 お弁当を私のつくに置くなり、私のノートを見て目を輝かせていた。


「なにこれ! 麗、可愛い絵描いてる! 何のキャラクター?」


 仁美も私と同じ完成を持っているんだな。悪役令嬢はやっぱりハマるよね。

「ふふふ。これは、14世紀の悪役令嬢。煌びやかでしょ」


 私がそういうと、仁美は目を輝かせて話に乗ってきた。


「いいねいいね。セリフとかも書いていこうよ」


 仁美は、机の上にあった筆箱からシャーペンを取り出して、書いていく。


「さっき先生から、あの部分テストに出るって脅かされたでしょ? 大事なところだからセリフで言わせて……と」


 私と仁美は一緒になってノートに描いていった。

 見事にセリフのようになった。

 「フランスの初めての女流作家は、わたくし『クリスティーヌ・ド・ピザン』。薔薇の言葉を綴りました」


 未知の世界を知れる授業って楽しいな。

 世界史、好き。

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