雨の日

 窓の外は雨。


 教室の中だから、雨音こそしないものの結構降っている、

 お昼時だというのに、空は暗い。

 どこか地下室にでも幽閉されているみたい。

 ミステリアスな雰囲気で、今にも物語が始まりそう。

 私はこういう天気、ちょっとワクワクするんだよなー。



 外が暗いので、教室の中が際立って明るく見える。

 みんな、黙々とお弁当食べてる。

 雨の日だと、教室も静かになるから嬉しかったりする。


 こんな日は、本を読むのにも丁度いいのだ。

 早くお弁当を食べ終わったので、読書をしよう。


 カバンへ手を伸ばした時に、ふと前の席の健一けんいち君が目に入る。


 机の上に頬杖をついて、気だるげに窓の外を眺めていた。



「雨、止まねぇかなー……」



 遠くの空の方を見て、厚い雲の隙間を探すようにキョロキョロとしている。


 いくら探しても厚い雲に隙間は無いと思うんだけどな……。

 そう思っていたら、健一君は『晴れ』を探すのを諦めて机に顔を伏せてしまった。


 健一君のそばへ、別の男子が歩いてきた。

 落ち込んでいる健一君の肩を叩いて、励ましていた。


「健一、どんまい! 今日は部活できないから、どこか遊び行こうぜ!」


「はぁ、しょうがねぇか……」



 ◇



 授業が終わると、みんなそれぞれの部活へ行く。

 私は部活に入ってないから、気ままに図書室へ行こうと荷物を持って教室を出た。


 図書室は教室とは離れた別棟にあって、別棟へ行くためには渡り廊下を通っていく。


 いつもは日差しが入ってきて明るい渡り廊下だけれども、雨の日だと暗い道。

 別棟の電気が付いていないからか、進む先が真っ暗闇に見える。

 外界から切り離されて、どこか異世界へ行く道みたい。


 私は今から物語の世界に行くんだよね。

 先が見えない暗い道に、ちょっとワクワクしてくる。

 物語の続きは、分からない方がとっても面白い。


 何かにぶつからないようにゆっくり歩いて行き、図書室の中に入るといつもより混んでいた。

 雨の日は図書室は大盛況らしい。



 私は荷物を持ったまま、昨日途中まで読んだ本がある棚へ行くと、誰にも取られてないでちゃんとあった。

 ……良かった。


 一安心していつも座ってる席に行くと、そこには健一君がいた。

 健一君は友達と遊びに行かなかったらしい。



 席はどこでも自由に使えるけれども、今日は混んでるし……。

 しょうがないから健一君の前の席に着いた。

 席に着いた時の物音で、健一君は私に気づいたらしい。


「あ、有紀ゆきじゃん、どうしたのこんなところに?」


「どうしたのって、私のセリフだよ。健一君、本なんて読むんだね?」



 いつもサッカーばかりやってる健一君だけど、何を読んでるのか背表紙を見ると、私が読んでる作者の本だった。

 丁度私もこの前読み終わった所だった。



「特にいつもは読まないんだけど。何気なく読んでみ始めたけど、面白いなこれ! ‌サッカー部のやつらに話しても伝わらなそうだけど、めっちゃ面白いよ! ‌面白すぎて、誰かに話してぇ気分だよ!」


 健一君は、窓の外を見てた気だるさが吹き飛んで、楽しそうに笑っていた。

 そんな顔が、ちょっと可愛く見えた。



「……私で良ければ、話し相手になるよ」


「マジか! ‌そっか、有紀いっつも本読んでるもんな! この本について話せるってマジで嬉しい‌! ‌この主人公さ……」



 楽しそうに健一君が話し出す。


 男子と喋った事なんてなかったんだけども。

 1人で小説を読むよりも、ちょっと楽しいかも……。


 窓の外は暗闇で、いつもと違って別世界に来たみたい。

 私にとっては、ちょっと現実離れした世界。


 ……昨日の本の続きは、明日にしようかな……。


 私は本を開かずに机に置いて、健一君と小説の話をした。

 小説でも読めないような、こういう物語があるから雨の日って好き。

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