走る

 今日は晴天!

 雲一つなく綺麗に晴れている。

 気温も25度は超えないと、天気予報で言っていた。

 気持のいい五月晴れだ。



 今日は、高校行事の一環として、陸上競技大会が行われる日。

 それぞれクラス内で出場する競技を決めて、クラス対抗で競い合う。

 1年3組、足立あだち宝稀ほまれ

 私が出場するのは、1500m走。

 頑張るぞ!



 高校の近くに陸上競技場があるため、そこで開催されている。

 公式大会でも使われる400mトラック。

 競技場に入ってくる時に歩いたけど、ゴムのような少し弾力がある地面だった。

 走るのには最適だと思った。



 競技を実施していない時は、生徒は観客席に座って観戦をする。

 観客席はトラックの周りを囲むような高台となっており、トラックの中が隅々まで見渡せる。



 今は100m走の、『予選』が走が行われている。

 うちのクラスの浅岡君が走る番だ。


 顔が良くて足が速い。

 クラスの女の子たちから人気が高い男の子だ。

「キャー。がんばってー!」って歓声が上がっている。




「位置について――」


 トラックに響く声。

 歓声を送っていた子たちが静かになる。

 一瞬にして、会場全体が緊張に包まれる。



「よーい――」


 私も、息をのむようにして浅岡君を見つめる。




 パンッ!


 スタートが綺麗に決まった。

 低い姿勢で地面に顔を向けながら、一歩一歩短い歩幅で足を動かしている。

 小刻みに振る腕がとても早い。


 浅岡君以外の人は思い思いのフォームで走り出しており、最初から体を起こして走る人、前傾姿勢のまま走る人ばかりだった。


 比べるとわかるが、浅岡君の走るフォームは段違いで綺麗だった。


 最初こそ他のの走り方をしている人の方がリードしていたのだが、30mくらいから浅岡君が逆転し始めた。

 身体を起こし始めた浅岡君が追いつき、追い抜く。


 太ももが綺麗に垂直に上がって、腕も大きく振られて、顔はぶれずに一点を見つめ進んでいく。


「――カッコいい……」


 思わず声が漏れてしまった。

 他の人のことを気にしないで、自分のフォームで。

 リードされてるとか、気にしない。

 自分のフォームで走っていく。


 前傾姿勢でずっと走っていたサッカー部の宮前君と並んだ。

 浅岡君は追い抜いてやろうとか、そういう表情は一切見せず、淡々と自分のベストを尽くそうとしているように見えた。

 フォームは崩さない。

 自分を貫いている。



 ゴール。



 浅岡君が逆転して一位でゴールした。


「キャーーー!」

 黄色い歓声が飛んだ。


 結果を出すというのはカッコいいけど、そうじゃなくって。

 ただひたすらに自分を信じて走るような、そんな姿がとてもカッコよかった。


 浅岡君は、歓声に答えるようにこちらを向いて両手を振ってくれていた。



「――次の競技は1500m走です。出場される方はトラックの方まで降りて来てください。」



 よし、私も頑張ろう。


 トラックに降りたら、すぐにスタート位置へ並ばされた。

 競技は沢山あるので、すぐスタートするらしい。



 勝負なので勝ち負けはあるけれど、私なりに走ってやろう。

 浅岡君を見て、そう思えた。


 長距離だから、走るペースはゆっくりかもしれないけど。

 絶対に止まらないで走り抜ける。


「位置について――」


 大きく深呼吸をして、肺に空気を入れる。

 準備はオッケー。



「よーい――」


 前だけを見つめて。


 これから自分なりに走るんだって思うとワクワクするな。

 自然と笑みがこぼれる。



 パンッ!



 ゆっくりと一歩目を踏みしめる。



 私は、走るのが好きだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る