麦茶

 カーテンの隙間から朝日が差し込む。

 5月ともなると、日の出時間も早い。


 日の光が部屋に入ってくる時間になると、自然と目が覚めるようになっていた。

 それも、すっきりとした目覚め。

 朝の光は気持ちがいい。


 枕元に置いてある目覚まし時計はまだ鳴っていない。

 時計の針を見ると、まだ5時30分であった。


 ――今日も早起きできた。



 隣の布団を見ると、母も父も寝ている。

 母は少し寝相が悪いようで、父の体の上に足を乗せていた。

 父は少し苦しそうにしている。


 ゆっくりと布団から出て、母の足を父の上からどかして真っすぐな姿勢に戻してあげる。

 そうしたら、母も父も安らかな寝顔となった。


 ――うん。二人は仲良し。




 静かに寝室のドアを開けて、一階のリビングへと向かった。


 最近、毎朝一人で起きれるようになって少し嬉しい。

 小学3年生になったんだもんね。一人でなんでもできるもん。



 冷蔵庫を開けて、作り置きしてある麦茶を取り出してコップへと注ぐ。

 朝の一杯は、美味しい麦茶。

 この味が好き。


 コップへと注ぐと、麦茶の残りがあとわずかになってしまった。


 ――これは、大変だ……。朝ごはんの時に、みんな困っちゃう。

 ――そうだ! 私が麦茶を作ってみよう。



 いつも母が作るところを見ているけど、自分がやってみるのは初めて。


 けど、できるよね。

 早起きだってできるようになったし。

 私は、小学三年生!



 冷蔵庫の隣の棚にある、麦茶パックの入った袋を取り出す。

 袋の中には、麦茶パックが多く入ってるようで少し重かった。


 簡易的に閉じられているジッパーを開けると、香ばしい麦の匂いが漂ってきた。

 ふんわりと私の周りを包む。

 麦っていい香り。



 パックを一つ取ってジッパーを閉める。

 これを水に入れても作れるらしいんだけど、お湯を沸かして作る方が美味しいって母が言っていた。


 私もやってみよう。



 大きい鍋に水を入れて、IHコンロへと持っていく。

 やり方はいつも見ているからわかっている。

「15分タイマーをつけておけば良いだけー」って母がいつも楽し気にやってるのだ。


 うん、私にもできそう。

 麦茶パックを鍋に入れて、IHコンロのスイッチを入れて15分タイマーを付けた。

 ……母はああ言ってたけど、できあがるまで心配だから見ておこうっと。


 タイマーをつけても、水から煮立てるから沸騰するのは時間がかかりそう。

 まだ、水の様子も全然変わっていない。

 色は無色透明のまま。



 3分経っても、5分経っても、沸騰もしなければ、水の色も変わらない。


 ……私失敗しちゃったのかな?



 タイマーの残り時間が7分になったところで、小さい気泡が出始めた。

 湯気も少し出てきて、麦の香りが強くなってきた。

 水の色も徐々に茶色みを帯びてきた。



 いいね、いいね!


 段々と泡も多くなり、沸騰してきた。

 ぐつぐつと、麦茶成分が鍋の中に溶けだしていった。

 そのままの様子で15分経ったら、部屋中は麦の香りで包まれていた。

 朝から良い気分だった。



 そうしていると、二階から母と父が降りてきた。


「あら、美味しそうな匂い……。あ、みちる、麦茶作ってくれたの?」

「うん!」


 麦の匂いと、母と父の笑顔から始まる一日。



 私は、麦茶が大好きだ。

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