カメ

 教室の窓際には、水槽が三つ並んでいる。


 一つ目の水槽は金魚。

 生き物係が毎日水を交換してくれている。

 赤くて小さい金魚は、いつでも元気に泳いでいる。

 可愛い子たち。


 二つ目の水槽はザリガニ。

 金魚と一緒だと、金魚を食べちゃうから水槽を分けている。

 元気よくピースしている。

 意外と可愛いやつ。


 最後の水槽はカメ。

 水槽の中には石が置いてあり、カメが水から上がれるようにしている、

 このカメが、最近元気がなくなってしまったのだ。

 石の上で、甲羅の中に入って動かなくなっている。



「もしもしカメよ。カメさんよー、カメさんは長生きだって言ってたじゃん……」

 元気の無いカメに向かって話しかける。


 そうやって話しかけても、殻にこもってて全然動きだす様子も無かった。

 もう死んでしまうのかなと思うと悲しくなる。

 首を傾けて下の方から覗いて見てみても、やっぱりカメが動く様子は無かった。


 しばらくカメを眺めていると後ろから先生がやってきた。

「冬は寒いから、カメさんも動かないんだよ。冬眠ってやつだよ」


「冬眠?」


「春になったらカメさんも元気になるから安心してるといいよ」


 そうなのか。

 冬は、カメさんは寝るんだ。



 ◇



 春になって学年が一つ上がって、私は二年生。

 飼育していた生物たちも一緒に二年生。


 春休みの間見てなかったけど、カメさんはどうなったのかな。


 クラス替えなんてない小さい小学校。

 気になるのはカメさん。

 変わらない友達に簡単に挨拶をしたら、すぐに窓際の水槽のところへと行く。



 金魚は少し大きくなっていた。

 相変わらず元気に泳いでいる。

 金魚さんこんにちは。大きくなったね。



 ザリガニも、相変わらずピースしている。

 私も、両手をチョキにして挨拶をする。

 チョキの手を、ちょきちょきと動かして挨拶。

 ザリガニさんも元気だね。



 残る一つの水槽。カメさん。

 横目でチラッと見ると、石の上にはいないようだった。

 まさか、死んじゃってないよね……。


 カメさんの水槽に一歩近づいて上からじっくりと見るが、姿が見えない。

 少しかがんで、水中の中を見るがやはりいない。


 ……カメさん。



 しばらくカメを探していたら、先生がやってきた。


「先生! カメさんはどうしちゃったの? 姿が見えないの……」


 先生は、いきなりの大声を上げた私にびっくりしていたが、カメの話だと認識すると柔らかい笑顔を向けてきた。


「さくらさん、カメさんは暖かいところに避難しています」


 先生はそう言うと、水槽の隣に置いてあった箱を開けてみせた。

 その中にカメさんがいた。


「カメさん!」


 カメは頭を出して、のんびりと歩いている。

 箱の端っこに置かれた餌のところへ向かっているようだ。

 ゆっくり動く姿はとても可愛かった。



「さくらさん、二年生は生き物係をしてみない?」


 そういって私に優しい笑顔を向けてくれた。


「カメさんも、毎日さくらさんにお世話してもらいたいよ」


 私の顔から、自然と笑みがこぼれた。

 自分でもわかった。

 生き物はたくさんいるけど、私はカメさんがとっても好きだったんだ。

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