マグロ

 最近できた近所のスーパー。

 緑色の大きな看板で、植物が発芽したようなロゴが付いている。

 新規店舗ということもあり、フレッシュさを感じる。



「このスーパーは、他のスーパーよりも安くてお惣菜が美味しい」

 そんなことを母がよく言っている。


 今日も家族そろって、そのスーパーへ買い物へ来た。


 屋上駐車場に車を止め、エレベーターを使いスーパーのある階へと降りる。

 エレベーターを降りると、目の前には食品売り場が広がっている。


 店内は広くて天井も高いため、とても明るい。


 店の中に入ってすぐに目に付くのは、野菜売り場。

 他のスーパーよりも一番上の桁が1つくらい安い。

 それなのに味は美味しいのだ。



 このスーパーに来ると、母はご機嫌になる。

「安いっていいわね」って。


 そんな野菜売り場を過ぎると、立札が合った。

『マグロ解体ショー。12時から!』



「マグロの解体ショーがやるってよ! せっかくだから見ていく? 六花りっかマグロ好きだし」


 テレビで見たことはあるが、生で見るのは初めて。

 ワクワクする気持ちで母へ返事する。


「絶対見たい!」



 ◇



 時間がまだ早かったので、ゆっくりと買い物を終わらせて、車に荷物を置いた。


 マグロ解体ショーのところへ向かうと、既に大勢の人だかり。

 解体する職人さんが、説明をしてくれていた。


「これは、キハダマグロって言います。こう見えて100Kgを超える重さがあるんですよ」


 観客から「おぉー」とか「へぇー」という声が漏れている。

 みんな マグロに夢中だった。


「この包丁で切っていきます。まずは頭から」


 見たことない大きい包丁をマグロの頭に差し込む。

 良い包丁だとしても、マグロはすんなり切れないようで、職人さんは体重を込めて切っていく。

 静かな切り音。あんなに強く切っても。


 頭が切れたら、桶に飾ってくれた。


「頭が欲しい方がいたら、あとで解体しますからね。まずは皆さんの好きなトロ部分を解体しましょう」



 そういって、お腹の方に包丁を入れて切り始めた。

 やはり静かな音だった。職人さんの腕なのだろう。

 身を傷つけずにスーッと切り分けていく。


「こっちが赤身で、こっちがトロです。良い色してるでしょ? 欲しい方がいたらどんどん解体していくので買って行って下さい」


 大きく切り分けられた部位は、職人さんからスーパーで働く職員さんへと渡された。

 売り物として更に小さく切り分けるのは、スーパーの職員さんのようだった。



「お母さん、すごいね。マグロの中ってあんなになっているんだね」

「すごいわよね。とっても美味しそう。夕飯はマグロ丼にしようか!」


 そう言いながらマグロの切り分けを見つめていると、職人さんと目が合った。

 職人さんは、一生懸命に見つめる私にニコッと笑顔をくれた。


「お嬢さん、マグロ好きかい?」


「はい! マグロ、とっても大好きです!」

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