シンデレラ
夜闇に浮かび上がる城。
小高い丘の上に城は立っており、100段以上の長い階段を登るとたどり着く。
城の窓からは煌びやかな光が漏れていた。
そこに着いたのは23時。
ちょうど鐘が鳴り終わる頃に城の扉をくぐった。
城の中では舞踏会が行われており、遅れてたどり着いた。
お城の中は天井が高く、大きなシャンデリアが天井に吊り下げられていた。
キラキラと輝く光の中に王子様は立っていた。
「初めまして。どなたか存じませんが、まずは踊りませんか?」
息も整わないうちにそう言われて。
戸惑いながらも、城まで来た目的が叶えられると王子様の申し出に答えた。
「よろしくお願いいたします」
スカートの裾を持ち、軽く会釈をする。
その反応に、王子様も優しい笑みで答えてくれた。
丁寧に手を取られ、ゆったりと流れる曲に合わせて身体を左右へ揺らす。
「そう、そのまま僕に体を預けて」
王子様の力で、体が優しく引っ張られる。
右手を引っ張られて、右足を出し。
今度は逆に左足。
王子様にリードされるがまま、ステップを踏む。
「緊張なさらずに」
段々とステップにも慣れてきて、顔を上げれるようになった。
目の前には王子様の顔。
「やっと、目が合ったね」
そう言って、優しく微笑む王子様。
後ろにシャンデリアがあるからから、笑顔がとても輝いて見えた。
そのあとは、ずっと王子様の顔を見て踊り続けた。
王子様と踊っていたら、時間が過ぎるのはあっという間。
鐘が鳴り始めてしまった。
24時の鐘だ。
「早く帰らないと」
王子様の握ってくれていた手を振り解き、城の扉へと一目散に駆け出した。
靴が脱げるのも気にせず、階段を降りていった。
落ちたガラスの靴を王子様は拾ったのだった。
◇
「それがこの靴ね」
シンデレラ博物館。
『ガラスの靴』が、ガラスのケースにしまわれて
展示されている。
『ガラスの靴』の横に、小型ディスプレイがついており、シンデレラの動画がずっと流れていた。
釘付けになっていた私は、少ししゃがみこんでずっと見ていた。
私がシンデレラの大ファンということで、彼氏が連れてきてくれたのだ。
「これ、綺麗だね!」
ガラスの靴を指さして、彼氏の方を向くと無表情で、あまり興味無さそうにしている。
ポケットに手を入れて、上から睨みつけられていた。
私は何故メンチを切られてるだろうか……。
しゃがんでいた姿勢からゆっくり立ち上がって、恐る恐る聞いてみる。
「……
無愛想な顔が近づいてくる。
「……王子様なんて見てないで次行くぞ」
そう言って、順路の先の方へ向いて歩いて行ってしまった。
そうか……。
宏和君、王子様に嫉妬してたのか。
可愛いところもあるんだな。
「待って待って! 一緒に行こう!」
不貞腐れて、ポケットに手を入れたままの宏和君に走って追いつく。
宏和君の腕を無理やり両手で掴んで、腕を組んだ。
「私の王子様は、宏和君だよ?」
宏和君の顔を見上げると、目線を逸らされた。
少し照れくさそうにニヤケたけど、頑張って無表情に戻そうとしているようだった。
「……俺にとってのシンデレラはお前だよ」
……こんなデートも、いいな。
宏和君、連れてきてくれてありがとう。
私、やっぱりシンデレラが好き。
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