将棋

 家の近くの地区センター。

 結構古い建物である。


 2階建てで、白い外壁に覆われている。

 白と言っても黒ずんでいるので綺麗ではなく、ところどころひび割れをしていたりする。

 全体的に古い感じなのだが、中は意外と綺麗なのだ。


 学校が終わると、たまに友達と遊びに来る。

 私の家から自転車で数分の距離にあるので、遊びに集まるにはちょうどいい場所。



 地区センターで遊ぶときは、もちろん現地集合だ。

 ゆっくり来てもいいのだが、そうすると私たちの遊ぶ『将棋盤』が使えないことが多い。

 いつもおじいちゃんたちが使っているので、残っている数個の将棋盤を取り合う形になっている。


 なので、地区センターに行くときは極力早く行くのだ。

 早くいった人がすぐに将棋盤を確保しておく。

 それが、私たちのルール。


 私の家が比較的近いので、一番になることが多い。

 今日も自転車で疾走して、地区センターへと着いた。

 誰の自転車も置いてなかったので、一番乗りで着いたようだ。


 早速地区センターへと入り、階段を上って将棋盤がある二階へ行く。


「祥子ちゃん、こんにちは。今日も早いね」

「将棋がしたいので!」


 毎回私が一番乗りで来るものだから、おじいちゃんは私のことを覚えてくれているようだった。

 おじいちゃんの名前は知らない。

 毎日いる将棋好きのおじいちゃん。



「今日は、残り一個みたいだよ。早く取ってっちゃいな」


 将棋盤がなくなるのはまずい。

 走って将棋盤のところへ行くと、おじいちゃんの言う通りだった。

 残り一個。


 急いで将棋盤が入っている棚に手を伸ばすと、もう一つの手が横からやってきた。

 かろうじて、私の手が早く将棋盤を取ったのだが、もう一つの手の方も将棋盤を握ってきた。



「私が借ります。この将棋盤」

「待てよ、俺が借りる」



 手の主は、見たことのない男の子であった。

 活発そうなツンツンした髪の毛をして、短パン、半そで。

 いかにも外で遊ぶのが好きそうな、やんちゃそうな男の子だった。


「私の方が早かったと思います」


 絶対に私が早かった。

 けれども、男の子はむっとした顔をした。


「ほぼ同時だっただろ」

「いえ、私の方が先です」



 言い合いになりそうだったところ、先ほどのおじいちゃんがやってきて仲裁に入ってくれる。

「まぁまぁ、二人とも」


 私と男の子は、将棋盤を握り続けていた。

 おじいちゃんは私たちの手をそっと避けさせて、将棋盤を長机の上へと持って行った。


「こんなに早い時間に来たんだったら、二人で一局対決するなんてのはどうじゃ? 勝った方が将棋盤を使うと良い」


 男の子が不服そうにしながらも答える。

「いいぜ。俺負けねえもん」



 そういって、男の子は将棋盤の前の椅子へ座った。

 私も将棋の腕には自信がある。受けて立とうじゃない。

 将棋盤を挟んで、男の子の前の席に私は座った。



「すぐに勝負をつけます。友達と将棋をするために」

 私がそういうと、おじいちゃんがうんうんとうなづいて、コマを並べるのを手伝ってくれた。

 コマを並べ終わると、おじいちゃんが審判をしてくれるようだった。


「じゃあ、正々堂々勝負するんじゃ。先手は祥子ちゃんにしよう」


 どんな相手だって、私は負けない。速攻で勝ってやる。

 将棋盤を見つめる。

 もちろん、私の最初の一手は▲7六歩。

 迷わずに、すぐ指す。


 男の子も悩む様子は無くて、すぐさま△3四歩を指してくる。


 次の私の一手。▲7五歩。


 私の早指しに答えてくるように、男の子も次々と指してくる。

 早指し勝負。友達とやる時とは違った緊張感がある。

 こんなに早く指しても、乗ってくるなんて。

 しかも、きちんと考えているみたい。



 ……面白い。



 やっぱり、私は将棋が大好きだ。

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